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福祉施設発、魅惑の雑貨ショップ  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」

2024.01.01

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福祉施設発、魅惑の雑貨ショップ  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」の写真

 長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町には、若い世代が農協の倉庫跡地を爽やかにリノベーションした「ソリッソ・リッソ」というプラットフォームがある。カフェやショップのほか、近隣にはフレンチレストランもあり、にぎわいを生むスポットとなっている。

 久々に現地を訪問すると、その隣の元コインランドリースペースがすてきで、ワクワクするショップに変貌していた。外観はコインランドリーの建物にしか見えないのだが、一歩店内に入ると、カラフルで斬新なデザインのステーショナリーやバッグ、アクセサリーなどの雑貨やアート作品が空間をにぎわいのあるものにしている。一つ一つが丁寧に作られた楽しい商品で、買いたくなってついつい手に取ってしまうから不思議である。

 この店舗にある商品はすべて、障がい福祉サービスを利用する人たちが手がけたものだというから驚きだ。また、再利用率90%の段ボールを使った紙の額縁など、近隣企業の廃材などを資源として利用しながら、デザイン性の高い優れた商品開発も行っている。

 店舗のブランド名は「=vote」(イコール・ボート)。誰もが等しく参加できる社会、サステナブルな地域づくりに向けて、投票(vote)するように商品を選ぼうというコンセプトである。(写真:「=vote」店内の様子、「=vote」提供)

 かつて障がい福祉事業所で生産された商品と言えば、「福祉に貢献するために買ってあげよう」という動機で購入することもしばしばだった。そこでは、日常生活がワクワクするということとは少し違った動機による消費が行われていたように思う。だが、「=vote」の商品は、そうした「支援」の世界からかけ離れた魅力的な作品ばかりであり、どんな人がデザインしたんだろうと想像が膨らむ。

 近年、「ヘラルボニー」(盛岡市)をはじめ、障がい者アートのデザインを生かした商品開発は各地で注目されるようになってきた。「=vote」がユニークなのは、デザインだけでなく、縫製や布への印刷などの製作までを一貫して障がい福祉事業所が行っていることである。地域で、障がい者一人一人の特性を踏まえた社会参加と稼得機会を創出できるよう、複数の事業者が連携する体制を整えている。

 「=vote」オリジナル商品は東京駅や大阪の百貨店でも販売。流通拡大を通じて、福祉施設のモノづくり技術の高さを世の中に伝えることや、企業の廃材利用を通じた環境負荷の低減、多様な働き方を可能とする環境創出、さらに優れたデザイン力により、豊かな地域の空間づくりが目指されている。

 何より「=vote」のショップで味わう高揚感は、誰もが参加できる持続可能な社会への期待を感じさせる。

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