自然の恵み、育み続けなければ絶える 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2023.12.18

猛暑の影響か、この秋はキノコの不作が各地から伝えられた。私の地元(長野県東信地域)では以前はマツタケがよく採れたらしいが、最近はさっぱりで、今年はそれに輪をかけての不作だったらしい。他のマツタケ産地も多くは不調だったようだ。
実は今年の春先に「マツタケ名人」と称される人を取材する機会があった。その人はマツタケのシーズンともなると、それこそ「雨が降ろうが槍(やり)が降ろうが」毎日山に足を運んでマツタケ採りにかかりきりになる。そしてそれ以外のシーズンも、よほどのことがない限り山に行き、マツタケが発生しやすい環境を整えるために山の手入れに精を出す。
作業は主に柴(しば)掻(か)きとマツタケの天敵(一部のキノコや植物はマツタケ菌の生育を阻害するとされる)退治である。柴とは小枝や灌木(かんぼく)類のことで、これが地表に堆積して腐植層を形成するとアカマツはそこから養分を取るようになり、マツタケ菌のいる地中には根を伸ばさなくなってしまう。マツタケはアカマツの根に寄生する菌類なので、アカマツと縁が切れれば生育できない。だから柴を「掻く(取り除く)」のだと名人は教えてくれた。
(写真:名人が管理しているアカマツ林。マツタケ山に広葉樹は要らないともいわれるが、アカマツ以外の植生も大事にするのが名人の流儀だ。筆者撮影)
かつての山村では柴は燃料や肥料として重宝され、住民はこぞって山に入り柴を掻いた。ところが電気や化石燃料が普及し、化学肥料が登場すると、誰も柴を掻かなくなった。名人に言わせると、マツタケが絶滅危惧種になったのは「当たり前」で、山の手入れもせずにただ取るだけなら「絶えちゃうよ」と言い切ったものである。
私たちは水や空気をはじめとするさまざまな自然の恵みによって生かされているわけだが、それらの恵みをただ享受するだけではなく、育み続ける努力をしているだろうか。自然が健全であり続けるように私たちが務めなければ、その恵みはいつか絶えてしまうかもしれないのである。
この秋、友人からマツタケを頼まれ、名人につなぐと「今年は暑かったからよくないんだよ」とさすがの名人も声のトーンを落とした。しかし、結果的には見事なマツタケが届き、私も大いに面目を施した。育み続けなければいけないことはたくさんあり、それができなければ「絶える」。名人の言葉をかみしめている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年12月4日号掲載)
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