欧米マーケットで注目集める海藻 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.12.11
世界中で今、海藻がブームだ。そう言うと、驚かれるかもしれない。日本で海藻と言えば、ワカメやコンブ、ヒジキといった純和食で使われることが多い食材。どちらかというと地味なイメージが強い海藻が、いったいどんなブームに? と。
ミネラルや食物繊維が豊富で低カロリーな海藻は今、ヘルスコンシャスな欧米マーケットで注目を集めている。海藻の海面養殖は水も土地も要らず生産の環境負荷が低いこと、実は豊かなうま味やタンパク質を持つことから、環境意識が高いレストランやビーガン市場でも大人気だ。
そもそもの料理界での火付け役は、デンマークの有名レストラン「ノーマ」だったと記憶している。シェフのレネ・レゼッピ氏らが設立した食の研究所、ノルディック・フード・ラボが、海藻に含まれる〝umami〟についての論文を発表したのは2012年のこと。北欧の海に群生するダルスという海藻に、コンブに近いうま味値を見い出したという内容で、これを使ったアイスクリームなどノーマの料理展開例とともに、海藻の可能性を紹介したのだ。
この論文は料理界で大きな注目を集め、翌13年、主執筆者であるオーレ・モーリットセン博士の来日時、私はある出版社の依頼で、長時間にわたる取材の機会に恵まれている。(写真上:海藻サミットでモーリットセン博士<右から2番目>と再会=11月、秋田・男鹿、筆者提供)
「コンブのうま味に比肩できる海藻を、ずっと探していたんだよ。コンブほどじゃないが、なんとか出汁(だし)を取れる海藻が見つかって、レネも大喜びなんだ」
当時、欧米のごく一部のマニアのものだった海藻の位置付けは、10年の時を経て激変したと言っていい。サラダやスムージーの素材としてだけでなく、そのうま味を利用した海藻スナックや昆布麺、海藻入りバターやプラントベースのハンバーガーパティなど、多種多様な商品が開発されている。
イタリアのスローフード協会が世界中の会員を集めて開催する年次総会の、昨年の設定テーマは海藻だった。アメリカのオーガニックスーパー「ホールフーズ」が毎秋に発表する翌年の食トレンド予測でも、海藻使用食品はほぼ常連になっている。
海藻との付き合いには、一日の長がある日本。この先、磯焼けや乱獲により激減中の天然海藻資源を守るアクションも含め、世界の海藻食文化をリードする立場にもなれるはずだ。料理人チームであるわれわれも、その一助を担えればと考えている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年11月27日号掲載)
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