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インバウンド「こだわり消費層」  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」

2023.12.11

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インバウンド「こだわり消費層」  森下晶美 東洋大学国際観光学部教授   連載「よんななエコノミー」の写真

 コロナ禍以降、にわかに注目されている観光のトピックに

〝高付加価値観光〟がある。「1回の滞在で1人あたり100万円以上を消費」し、「満足度を追求するためには費用制限がない」インバウント旅行者を誘客することをいう。今年3月に閣議決定された第4次観光立国基本計画でも、施策の一つとして「高付加価値なインバウンドの誘致」が明言されている。背景には、インバウントの旅行者数増加に比べ、平均消費額においては2015年に1人あたり17万6167円を最高額として以来、低迷が続き消費額の増大が課題となっていることがある。

 では、100万円以上を消費する旅行者とはどのような人たちなのかと言えば、想定できるのは世界の「富裕層」と「こだわり消費層」である。富裕層に関する調査会社「Wealth-X」のレポートでは、個人資産として100万ドル(約1億5千万円)以上を保有する人たちを富裕層としており、世界には約2270万人もいるという。その分布は米国、ドイツ、中国、英国、フランス、スイス、ロシア、日本などに多く、旅行消費額においても一般旅行者と比較して10倍以上になる。一方、資産はそれほど多くないものの自分が価値を感じるものには消費を惜しまない「こだわり消費層」も消費額は高く、近年、比較的若い層を中心に増えてきている。

 日本政府観光局(JNTO)では、高付加価値観光旅行者について、ステータスやサービスに価値を感じる「従来型ラグジュアリー志向」と、本物の体験や自分にとっての意義に価値を感じる「新型ラグジュアリー志向」の2タイプがあると捉えているが、言い換えれば「富裕層=従来型」「こだわり消費層=新型」といえる。

 日本の場合、富裕層(従来型)が好む高い快適性、プライバシー、ベストサービスなどに対応できる地域や施設はまだ少なく、上質な宿の誘致やプライベートジェット、スーパーヨットへの対応といった課題は多いが、一方でこだわり消費層(新型)が好む文化、独自性、本物の体験などに目を向ければ、日本には海外では知られていない地方も多く、そこには精神性を背景とした独自の文化・歴史が多いなど、彼らが注目するコンテンツは十分だ。

 実際、こうした層向けにJNTOは「JAPAN.Where Luxury Comes to Life」という英語のサイトと動画を開設し、「山伏修行」「四国お遍路」「豊岡のコウノトリ保護区」など、地域が大切にしてきた独自の文化や自然を紹介している。こうした日本人が忘れかけていた地域文化や自然をインバウント旅行者が再評価してくれるのであれば、高付加価値観光は経済効果以上の価値があるかもしれない。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年11月27日号掲載)

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