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消えた「成長産業化」 方向失う岸田農政 アグリラボ編集長コラム

2023.10.29

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 岸田文雄政権の農業政策の方向が、ますます見えにくくなった。10月23日の国会の所信表明演説で、これまで農政の柱として位置付けてきた「農業の成長産業化」について触れなかったからだ。

 政府は、「農政の憲法」とも言われる食料・農業・農村基本法の改正を目指しており、演説では農業政策について強いメッセージが示されると期待されていた。しかし、農業への言及自体が極めて短く、基本法にも触れなかった。

 「農業の成長産業化」は、安倍晋三政権の構造改革政策の中核であり、菅義偉政権に引き継がれた。岸田首相自身も「輸出の促進と、スマート化による生産性向上により、成長産業化を進めます」(2022年01月17日の施政方針演説)と述べていた。

 ただ、成長産業化に向けた施策は足踏み状態で、ことし6月14日の衆院農林水産委員会では、日本維新の会の足立康史議員が農政改革・構造改革について「(農政は)先祖返りするのか、しないのか(中略)岸田内閣は明らかに、安倍内閣がやってきた今の基本法に基づく構造改革路線をひっくり返そうとしている」と厳しく質問、野村哲郎農相(当時)が「従来の考え方とは変わっておりません」と答弁する一幕があった。

 10月13日に官邸で開かれた食料安定供給・農林水産業基盤強化本部(本部長・岸田首相)では、総合経済対策に反映させる政策として「食料安全保障の強化」「農林水産物・食品の輸出促進」「農林水産業のグリーン化」「スマート農林水産業による成長産業化」の4本柱を示した。序列こそ後退したが「成長産業化」の5文字は生き残っていたのだ。

 しかし、わずか10日後の所信表明演説で首相は「持続的な食料の安定供給に向け、食料安全保障の強化、農業のスマート化・グリーン化の推進を図ります」とだけ述べ、その後に「農林水産物・食品の輸出促進に強力に取り組みます(中略)農政を転換し、実践的な支援を行ってまいります」と付け加えた。成長産業化は「スマート化・グリーン化」に整理・統合されたとも解釈できる。

 「農政を転換する」と言いつつ、何をどう転換するのか、極めてわかりにくい。首相は何を意図しているのか。衆院の解散・総選挙に備えて、痛みを伴う改革路線を見直し「先祖返り」することで中小農家に配慮する姿勢を示したいのか。あるいは、株式会社の農業参入など強力な規制緩和を求める日本維新の会をけん制したいのか。

 農業政策は、選挙のたびに政治的な思惑で軸がぶれるという苦い歴史を繰り返してきた。基本法改正に向けた準備が大詰めを迎える中で、政策の方向を明示できないとしたら、それは岸田政権の汚点というよりは、日本の農政の不幸だ。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)

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