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【日越50周年】事業活動通じ社会課題解決 味の素、不可欠の食文化に  NNA

2023.10.18

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【日越50周年】事業活動通じ社会課題解決 味の素、不可欠の食文化に  NNAの写真

 味の素グループは1991年、日系企業の中では早い段階でベトナムに進出し、「伝統市場」と呼ばれる露店営業を通じて、うま味調味料を料理にいかす習慣を広げてきた。現在では国民食「フォー」の屋台でも社名の調味料が使われ、生活に溶け込んでいる。2012年からはベトナム政府と協力し学校給食の支援を通して子どもの健康改善に取り組んでいる。持ち出しの慈善事業ではなく、利益が出る収益事業に育てることで、社会貢献活動の継続性と独自性を高めている。

 南部ホーチミン市中心部のオフィスビル。13階に上がると、揚げたてのエビフライの香りに空腹感を誘われた。味の素がオフィスに併設するキッチンで、スタッフが小学校向けの給食メニューを開発しているところだ。(写真上:ベトナム味の素のオフィスで学校給食用のメニューを調理する従業員=8月、ホーチミン市)

 献立はエビフライと鶏肉とわかめのスープ、ニンジンとキュウリのサラダ、白米、スイカ。調理後すぐに給食用皿に盛りつけ、写真を撮影し、レシピや栄養情報とともにデータベースにアップロードする(写真下)。

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 「学校給食プロジェクト」の目的は、子どもの健康的な食を支援することだ。全国の小学校に栄養バランスのとれた給食のレシピを提供し、栄養士のいない学校でも栄養価の高い給食を提供できるようにする。食材に含まれる栄養素や身体への役割が分かるビデオなどを通じた学生や調理者の知識向上、調理室の衛生管理の指導にも取り組んでいる。

■4300校に支援展開


 現在、味の素の給食レシピのデータベースを利用している学校は、全国約1万2000校の小学校のうち約4300校。給食施設を持つ学校はほぼすべてだ。ベトナム教育・訓練省や保健省傘下の国立栄養研究所と連携し、国内63省市のうち62省市に広がった。

 ベトナム味の素の給食支援事業責任者、グエン・バン・チュン氏は「10年以上前はベトナム人の健康状態が今より悪かった」と語る。都市部では栄養過剰で肥満や過体重が増える一方、農村部では栄養が不足して発育障害や低体重が目立つ「二重負荷」が深刻化。学校給食では栄養バランスが考慮されず、カロリーの高い穀物で空腹を満たすことが優先されていた。

 この課題を改善するため、同社が政府機関と連携して始めたのが学校給食プロジェクトだ。全国の小学校向けに、バランスのとれた給食メニューを開発しレシピを共有するほか、学生や調理者の食育も手がける。給食メニューは北・中・南部別で開発し、地域で好まれる味付けや入手しやすい食材を使うなどの工夫もしている。

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(必要な栄養素などを計算しながら給食メニューを開発する様子)

■利益確保が前提


 ベトナム味の素の南良勉社長は「プロジェクトは単なる慈善活動ではなく、事業の一環だ」と強調する。公開するレシピには調味料をはじめとする同社の商品が使われ、レシピを参考に調理する学校からの注文につながる。社会的な活動で親しみを抱いた消費者が、家庭でも同社の商品の購入を増やすことも期待できる。

 南良氏によれば、プロジェクトを通じた収益がコストを上回り、利益を生み出していることは第三者機関を通じても確認済みだ。社会貢献活動は利益が出なければ実施しない。事業を通じて社会課題の解決策を見つけ出すことで、企業の存在意義がいっそう高まっていくと考えている。

■乳幼児や妊婦支援も


 同社は1992年に南部ドンナイ省ビエンホア市に工場を稼働させ、うま味調味料の販売を始めた。当初の営業活動は、うま味調味料になじみのない全国の伝統市場を回り、社員が一人一人に商品を説明して回ることだった。

 その後、現地の食文化や味覚に基づく商品の開発にも力を入れ、原材料や味の現地化を進めていった。酢やマヨネーズなどの液体調味料、缶コーヒーなどの飲料、栄養補助食品など、商品を多角化することで顧客層の拡大も図った。

 同社は今年4月、経営理念を刷新し「高品質な製品と価値あるイニシアチブを通じてベトナム人・社会に貢献する」方針を明確に打ち出した。今後は給食調理室のない約8000校の支援に向けて、食事を届ける地元のケータリング業者などと協力拡大を図る。2020年からは保健省からの要望を受けて、乳幼児やその母親、妊婦の栄養バランスのとれた食事を支援する「母子健康プロジェクト」も開始している。

 「子どものころから両親や近所の人が味の素の商品を使って調理するのを見て育った」(中部高原ラムドン省出身の20代男性)。

 「ほぼすべてのベトナム人が味の素という会社を知っている」(南部ホーチミン市出身の20代女性)。

 多くのベトナムの人々が同社に抱く印象だ。社会に根を張り寄り添う姿勢が、同社の事業をさらに進化させる原点にある。(NNA

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