港町から広がる多様な共創 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」
2023.09.18
「競争より共創を」。そんな言葉を多くの機会で聞くようになりました。共創とは、多様な立場・価値観の人々が、協働しながら新たな価値創造や課題解決に取り組むこと。深刻な課題を多く抱える水産業界にとって、共創力は重要度を増していくでしょう。(写真はイメージ)
そんな共創力を発揮して、地域水産の消えかかった火を大きくしようと奮闘しているのが、静岡県西伊豆町の役場職員、松浦城太郎さんです。
西伊豆町は少子高齢化率が県内で最も高く、水産従事者の高齢化や担い手不足も深刻。一大産業であった水産が成り立たなくなり、町内で食べる魚を外から仕入れるほどになっています。こうした事例は各地で起きていますが、それに対する松浦さんの取り組みが非常に面白いのです。
松浦さんは釣りをきっかけに海が大好きになり、大学も海洋系を専攻。地元の役場へ就職した後も、海への愛情から、仕事の枠を超えて港に足を運び続けました。
その中で培ったのが、水産従事者との信頼関係やリアルな課題感。デスクに届くデータだけでは読み解けない深刻な課題の数々に、「西伊豆の水産従事者だけでは乗り越えられない」と覚悟を決めた松浦さんは、町内外の業種を超えたさまざまな人に会いにいき、課題を伝え、何か一緒にできないかと語り続けました。
筆者もそうして巻き込んでいただいたヨソモノの一人。〝西伊豆町の魚不足を解消しながら、観光を盛り上げる企画"として、2020年に「ツッテ西伊豆」をスタートしました。これは観光客や釣り人が提携船で釣った魚を町の地域通貨で買い取る仕組み。魚を起点に、人やお金(地域通貨)も回遊させることで、町全体の活性化につなげようというものです。日本初の企画ということで多くのメディアに取り上げられ、昨年からはバンダイナムコアミューズメントの大人気魚釣り体験ゲーム「釣りスピリッツ」と連携した、リアル釣りツアーも始まりました。
松浦さんは他にも、漁業者をはじめ町内生産者らと連携した産地直売所「はんばた市場」の立ち上げを担当して地産地消を推進。また東京や宮城の企業と連携して、アプリを用いた漁港の釣り場予約サービス「海釣りGO!!」や、釣りを副業にできる関係人口創出プロジェクト「西伊豆&ANGLER」を今年7月にスタートするなど、他にはないチャレンジをすごい勢いで進めています。
さらに個人的なチャレンジとして、一昨年から副業で漁師の仕事をスタート! 水産の自分ごと化を通して、課題の解像度が高まったといいます。
そして国が「海業」という"豊かな自然や漁村ならではの地域資源の価値・魅力の活用"を推進し始めたことで、より多様な人・企業と共創できそうだとワクワクしているそう。次はどんな新しい企画が生まれるのか、松浦さんの活躍から目が離せません。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月4日号掲載)
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