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コメ輸出大国が相次ぎ制限 インド、国際価格の高騰に拍車  NNA

2023.09.07

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 世界最大のコメ輸出国であるインドが、輸出制限を相次いで導入している。本年度(2023年4月~24年3月)の輸出量は10%以上、縮小する見通し。数年ぶりに発生したエルニーニョ現象の影響を受け、世界のコメ価格は7月に12年ぶりの高値に達したが、インドの制限がさらなる上昇圧力となっている。他国でもコメの輸出規制の動きが出ており、輸入依存度が高い一部のアフリカ諸国などへの供給不足も懸念される。(写真はイメージ)

 インド政府は7月以降、相次いでコメの輸出規制を導入している。卸売物価指数(WPI)を見ると、23年47月のコメ類の上昇率は7.80%で、前年同期の2.18%と比べ高くなっている。東部ビハール州在住の弁護士、プラモド・ヤダブ(Pramod Yadav)さん(38)は「コメ価格がやや上昇していると感じるが、いまは許容範囲内。わが家の消費量は月間最大40キロほどで、これ以上価格が上がると家計に響く」と話した。

 価格上昇が緩やかな段階にもかかわらず、相次いで規制を導入する背景には、国内供給の安定を最重視して、コメの輸出増を食い止めたい政府の思惑がある。政府は来年に総選挙を控えており、支持率低下につながりやすい食料品のインフレ抑制に余念がない。日本総合研究所の熊谷章太郎主任研究員は、「政府は、国内価格が高騰してからではなく、将来の高騰を見越した制限の導入が必要と考えている」との見方だ。

 政府は7月20日にパーボイルド米(精米前に蒸して乾燥させたコメ)を除く非バスマティ白米の輸出規制を導入。非バスマティ白米は、インド国内外で広く食されており、昨年度のインドのコメ輸出量全体の約23割を占める。輸出できるのはバスマティ米やパーボイルド米などとなった。

 政府によると、一部の輸出業者が規制をかいくぐるため、非バスマティ白米をバスマティ米と偽って輸出し始めた。その対策として政府は8月27日、1トン当たり1200米ドル(約17万5600円)以下のバスマティ米の輸出を規制すると発表した。地元メディアによると、10月中旬までの時限措置となる。

 政府はまた、25日にパーボイルド米の輸出に20%の関税を課すことを決め、即時発効した。

輸出量、10%以上減か


 地場格付け会社ICRAは、規制対象となった非バスマティ白米の本年度の輸出量が17%減少すると分析。同社でバイスプレジデントを務めるマニシュ・パタク(Manish Pathak)氏は「コメ全体で見ると10%以上の減少になる」との見方を示した。

 輸出量の増減は、その年の生産量に大きく依存する。日本総研の熊谷氏は、「インドにとってコメの輸出はバッファー(生産量から国内消費量を引いた余剰分を海外に売る)という位置づけのため、本年度の輸出量は輸出制限とともに、国内生産の動向に大きく左右される」と述べた。具体的な影響はまだ試算していないものの、8月の追加規制によりバスマティ米やパーボイルド米の価格が20%上昇する場合、輸出量を45%下押しする可能性があるという。

世界のコメ不足、本年度700万トン


 世界のコメ価格を見ると、国連食糧農業機関(FAO)のコメ価格指数が7月に12年ぶりの高値となった。ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギーや肥料の高騰、エルニーニョ現象などに伴う不作リスクが反映されている。

 インドの輸出規制の影響を受けて8月以降、「世界のコメ価格はさらなる上昇が見込まれる」(ICRA)。各国のコメの生産量にもよるが、本年度に価格が軟化する可能性は低い。米農務省(USDA)は本年度の世界のコメの生産量が需要を700万トン下回ると推定している。昨年度は800万トンが不足し、価格上昇を招いた。インドのあるコメ輸出業者の幹部は、「タイ、ベトナム、パキスタンなどの他の輸出国もインドの輸出制限による不足を補うほどの在庫はなく、世界のコメ価格への影響は大きい」との見方だ。

 国内供給と価格の安定を目的に、アラブ首長国連邦(UAE)がコメの再輸出を禁止。ミャンマーも9月からの輸出規制を検討している。日本総研の熊谷氏は「各国に輸出規制が広がる兆しがある」として、「インド以外のコメ輸出国も相次いで輸出制限を導入してパニックに陥り、一時的に価格が急上昇するリスクに注意が必要」と警鐘を鳴らした。

 世界のコメ価格が高騰すれば、特に影響が大きいのは、貧困・飢餓などの問題を抱えコメの輸入依存度が高い一部のアフリカ諸国になる。

国内価格も上昇の可能性


 インド国内を見ると、輸出制限による抑制効果は「ある程度」にとどまり、本年度の価格は前年度比では上昇しそうだ。

 モンスーン(季節風)の雨を利用するカリフ(雨期)作で、本年度のコメ作付面積は前年度を4.4%上回っている(8月25日時点)ものの、少雨の影響でカリフ作物の生産が打撃を受けるとの予想が出ている。熊谷氏は、「今年のコメ生産が不作であれば、輸入制限にかかわらず、コメ価格は高止まりやさらなる上昇の可能性がある」との見方を示した。(NNA

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