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中国、豪産大麦の関税撤廃  次はワインか  NNAオーストラリア

2023.08.17

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中国、豪産大麦の関税撤廃  次はワインか  NNAオーストラリアの写真

 中国商務省が、オーストラリアからの輸入大麦に対する制裁関税措置を3年ぶりに撤廃した。オーストラリア政府はこれを受け、世界貿易機関(WTO)に提訴した大麦に関する紛争処理手続きを取り下げると表明した。穀物業界は再開を歓迎したものの、巨大市場への集中に伴う地政学的リスクが顕在化した現在、今後中国への大麦輸出規模は以前の水準には戻らないとの見方も出ている。オーストラリアは制裁が続くワインについても関税撤廃を求めているが、見通しは不透明だ。

 連邦政府ウォン外相らが8月4日、中国政府から関税撤廃の通知を受けたと発表した。中国政府は「国内の市場の状況が変化し、関税を続ける必要がなくなった」と説明したという。またその5日後、中国政府はオーストラリア政府の要請に応じ、禁輸リストに載っていた西オーストラリア(WA)州最大の穀物業者CBHと、欧州のメジャー、ルイ・ドレフュスが昨年買収した穀物大手エメラルド・グレインの輸出禁止も解除した。

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 中国は2020年5月、オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源を調べるよう中国に求めたことなどに反発、オーストラリア産大麦に税率73.6%の反ダンピング関税と補助金分に当たる6.9%の相殺関税を課した。これにより前年には年間9億1600万豪ドル相当(豪外務省、1豪ドル=約94円)だった中国向け輸出は経済性を失い、事実上停止した。

 オーストラリアの各穀物業界団体は今回の関税撤廃を歓迎。グレイン・グロワーズのタートン代表は「高い価格を支払う中国市場との取引環境は整った」と述べた。

 ただ、同代表は中国への輸出停止は「市場多様化の価値」を浮き彫りにしたと指摘。関税導入前は中国がオーストラリアの大麦輸出の約7割を占めていた中、現在は同国市場の再開に際し、業界には「注意深い楽観主義」が広がっている状況という。同代表によると、生産者の間には現在、対中輸出に混乱が再び発生するという「チャイナ・リスク」について現実的な理解が浸透し、市場の多様化が優先事項になっている。

輸出市場の多様化すすむ


 市場分析会社メカルドによると20年の制裁関税を境に、オーストラリア産大麦の価格は1トン当たり300豪ドルから同250豪ドル以下に急落、黒海産と競合し他市場に影響を与える水準に下げた。ただし直後から中国の膨大な需要がオーストラリア以外に向けられたことで世界市場が動揺し、オーストラリア産大麦の価格は一定の値で支えられた。

 さらにオーストラリアは中国市場を失ったものの、サウジアラビア向けの輸出が増加。それまでサウジに輸出していた国が中国を目指したことで、オーストラリアは新しい市場機会を得た形だ。対中輸出は麦芽(モルト)が中心だった一方、サウジの需要は飼料大麦で輸出価格は下落した。だが世界有数のビール生産国メキシコにも麦芽の輸出が開始され、東南アジアへの輸出も増加した。その後価格も徐々に回復し、23年には制裁前と同じか、わずかに上回る水準に戻っていた。

 農業省のデータによると、オーストラリアの大麦の輸出高は19/20年度に10億2800万豪ドルで前年度から26%減少した。だが21/22年度には29億7700万豪ドルと2年間で約3倍に成長した。

制裁撤廃で需要拡大


 オーストラリアでは現在、シーズン終了が近く、市場の大幅な変化は来季の作物の供給後に現れるという見方もある。一方でビクトリア州穀物産業協会は「制裁撤廃とエルニーニョ現象による今後の乾燥が相まって、バイヤーは今季の作物の在庫確保に動く」と予想した。これにより国内北部への供給が細り、クイーンズランド州の牛の肥育場が最初に影響を受ける可能性が指摘されている。

 また価格に関し、メカルドは「プレミアム水準」に戻る可能性が高いと予想した。実際に今回の制裁撤廃を受け市場は需要拡大を予想し、価格は上昇した。WA州クイナナでは発表当日に前日から30豪ドル上昇の333豪ドルを付け、メルボルンでも40豪ドル上昇した。

 一方、穀物市場分析カルディニアは「世界市場はオーストラリアが中国との大規模な取引を再開し、欧州の大麦が南米など従来の市場に回帰すると予想しているが、オーストラリアは新市場から離脱し直ちに中国に向かうことはない」との予想を示した。

 香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)も「オーストラリアは市場を多様化し、中国への輸出規模は以前の水準に達する可能性は低い」との見方を示している。

関係改善ならワインも撤廃か


 大麦の制裁撤廃は、中国市場の消失で苦戦が続くワイン業界にとっても朗報となった。ファレル貿易相は、大麦の交渉は「紛争よりも議論と対話を重視するアプローチ」が奏功したと強調し、ワインの問題解決にもテンプレートとして適用すると述べた。

 中国商務省がオーストラリア産ワインに対し不当廉売関税として課した税率は、116.2%-218.4%にもなり、ワインの年間輸出額は19/20年度の28億豪ドルから、21/22年度には20億豪ドルに急落した。(ワイン・オーストラリア)。

 ワイン業界は早急な貿易正常化を望むものの、農業系銀行ラボバンクは政治的要素の影響がより強いと指摘。アナリストは「中国にとって穀物が重要になり、大麦の制裁撤廃の理由が純粋に供給の不足なら、ワインは可能性が低い」と述べた。一方で香港を拠点とするヒンリッチ財団の研究員は「もはやワインだけ制裁関税を維持する根拠はない」と指摘。ただ、制裁撤回の時期は不透明という。

 醸造大手トレジャリー・ワイン・エステーツ(TWE)は、すでに中国の関税撤廃の準備を整えたという。だがフォードCEOは「ここ数年間で存在感を増した新市場を犠牲にして中国に戻るつもりはない」と明言。特に成長が顕著なアジア市場を排除しなければ、以前のような中国市場が全体の利益の30%を生むような状況にはならないと指摘し、そうする意図もないと述べた。

 SCMPによると、連邦政府は中国で外相に再任した王毅氏にキャンベラ来訪の招待状を出したという。また、オーストラリアのアルバニージー首相も北京を訪問する意向を示しているが、時期は明らかにしていない。

 ラボバンクの同アナリストは、「大麦の制裁撤廃が両国の関係改善の結果なら、ワインの関税撤廃の可能性も高い」と指摘している。

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 8月11日号掲載)

【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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