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ハイボールで「文化」創出へ  サントリー、7年でバー20店視野  NNA

2023.06.26

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ハイボールで「文化」創出へ  サントリー、7年でバー20店視野  NNAの写真

 サントリーホールディングス(HD)傘下で蒸留酒の海外展開を担うビームサントリーが、タイでハイボールの普及を通じたウイスキーのブランディングに力を入れる。社内ベンチャーを立ち上げ、5月には首都バンコクのサラデーンでハイボールバー「1923」をオープン(写真、NNA撮影)。日本発のウイスキー、水、器材などを用いて品質の高いハイボールを提供する。バンコクを足がかりに、2030年までにアジア全域で20店の出店を視野に入れる。

 サントリーHD傘下の社内ベンチャー「Being Beyond Borders」が立ち上げられたのは、21年7月。東南アジア市場でハイボールというウイスキーの飲み方を体験する場を作ることで、広告塔の役割を果たすことを目的としたプロジェクトだ。

 ビームサントリーにとって、アジアではウイスキーの消費量が世界最大のインドのほか、シンガポールやタイ、ベトナムは将来の成長を見据えた重要市場となる。東南アジアで社内ベンチャーを立ち上げるにあたり、「Being Beyond Borders」社長の三澤慎吾氏と最高執行責任者(COO)の鈴木翔一氏はこの3カ国の市場を比較・分析していった。消費者の購買力や市場の成熟度という点でシンガポールは申し分がないものの、テナント料や人件費が高い。ベトナムでは、ビール類をはじめとしてアルコール類の価格が比較的安く、ある程度の価格でハイボールを提供するには不利になることが予想された。ブランディングを主要な目標に据えている以上、安売りをすることは長期的にマイナスの影響があると考えたためだ。また、ベトナムでは事業認可を得るための手続きの先行きが不透明だった。バンコクでは、シンガポールと同等の価格でアルコール類を購入できる上位中間層の数が多く、ビジネスが成り立つと考えたという。外国人旅行者の多さも魅力だ。

 「1923」はタイ人消費者の嗜好(しこう)を知るため、22年6月に「実験店」としてトンローに50平方メートルほどの店舗をオープン。カウンターのみで17席ほどだが、さまざまな知見を得たという。タイでは規制により店舗の営業時間は夜12時までに限られるが、それでも来店者は営業時間中に2~3回入れ替わることを期待していた。ただ、「渋滞がひどいため、入れ替わるのは1回だけ」(鈴木氏)であり、必然的に予想よりも客数が多く見込めないことがわかった。トンロー店のように食前食後にバーとして利用する飲料中心のお店では難しいと判断し、初の本格的な店舗となるサラデーン店では個室も設け、食事のメニューも3~4割を占めるように充実させた。食事の前後に立ち寄るだけでなく、店で食事をしに来るシーンも想定している。

日本での経験を再現へ

 ハイボールを通じてウイスキーのブランディングを促進する試みは、08年以降にサントリーが日本で展開した取り組みに通じる。当時の日本でもウイスキーの販売が低迷するなか、ターゲットを若い層に据えた。水とウイスキーの割合が2対1や3対1とウイスキーの比率が高かったハイボールを、ウイスキーを経験していない層に合う4対1とし、ウイスキーの風味を損なわない程度にレモンを軽く搾って風味をつけた。サントリー自身が専門店をプロデュースしたほか、安定的な比率を供給できる器材を開発。さらに酒類を提供するレストランや居酒屋に対して、地道にハイボールの作り方を説いて回った。

20230619thb002B002.jpg「2030年までに『1923』をアジア全域で20店舗展開したい」と語る三澤氏(写真左)と鈴木氏=5月、タイ・バンコク(NNA撮影)

 日本でこうした取り組みに携わってきた三澤氏は、「日本でマーケット自体を変化させたように、タイをはじめとした東南アジアで再現したい」と話す。タイでは日本食店が5300店以上あり、バンコクだけでも2400店近い(日本貿易振興機構=ジェトロ=バンコク事務所「2022年度タイ国日本食レストラン調査」)。ただ、ウイスキーのソーダ割の作り方は店ごとに異なり、同氏は「『おいしくない』というイメージが定着してしまえば、今後の事業の可能性を閉ざすことになる」と危機感を示す。

 「1923」では主にサントリー製のウイスキーをそろえる。北海道の水で作られた高圧炭酸水を使用し、しっかりと冷やした薄張りのグラスを使う。グラスやレシピに合わせて、純水から作った氷をすべて手作業でカットするなど、徹底して品質を追求している。「ハイボールはシンプルな飲み物である分、品質や細部に徹底的にこだわる必要がある」と鈴木氏は語る。価格設定を高めにしていることに見合った商品を提供できなければ、「単に高いだけの店」になってしまうリスクが常にあるためだ。

 品質を維持していく上でキモになるのは、人材の育成だ。従業員のなかには、ハイボールを口にしたことがない人も多かった。店員が来店者に対してどれだけ商品の良さを伝えるかは、リピーターを増やすカギとなる。「インドでは従業員用のマニュアルを写真や文章で作っても、全く読まれなかった」(鈴木氏)経験を踏まえ、マニュアル作成・共有システム「Teachme Biz(ティーチミービズ)」を導入。機械の使い方などをビジュアル重視の動画を見せて、誰にでも理解できるようにした。

 「1923」のハイボールの販売数は1日50杯ほどを想定していたが、100杯を超える日も珍しくない。通常、ビールやワイン、その他スピリッツを販売する店舗では、実現がほぼ不可能な数字だ。鈴木氏は「マーケットごとに味を変えていく必要があるか迷いもあったが、タイでの反応を見て、日本式の本格的なハイボールをもしっかり品質にこだわり再現すれば十分に需要があると感じることができた」と手応えを語る。タイにこれまでなかった飲み物を投入することで、消費者の選択肢を増やすことになる。バンコクでの出店を皮切りにまずはタイ国内で5店舗の出店を目指し、30年までにアジア全域で20店の出店することを目標に掲げる。タイをはじめとするアジア市場で、ハイボールを通じてウイスキーを楽しむ「文化」を作るべく、量と質の充実を目指していく。(NNA)

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