山を生かす製材の「人づくり」を 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2023.06.19

林業の場合、生産物である木材が生活者のもとに届くまでには、専門業者による加工プロセスを経ることが欠かせない。同じ第1次産業でも農業や漁業とは、この点が大きく異なる。
野菜なら家庭でカットするのが当たり前だ。魚は刺身や切り身になっているものも多いが、自宅ではらわたを取って三枚におろすくらいは、やってのける人がいくらでもいる。
だが、木材はそうはいかない。丸太を自分で製材できるという人はいたとしてもごくわずかで、普通は専門の製材業者が角材や板に挽(ひ)く役割を担う。大工や家具職人といったプロユーザーでも、製材業者が仕立てた製材品を仕入れるのが一般的だ。
つまり、国内の森林資源を生かすには、製材業者の存在が欠かせない。丸太のまま海外に輸出する手もあるが、同じ輸出するのでも製材品や家具などに仕立ててからの方が付加価値が高まるし、その分、国内で雇用を確保できる。
このように林業と製材業とは一蓮托生(いちれんたくしょう)とも言える間柄だが、実は製材というセクターの重要性はあまり認識されていない。そのことが顕著に現れているのが人材育成に関する力の入れ方の違いだ。
林業の場合、20年ほど前から「みどりの雇用」事業という取り組みが国の施策として実施され、担い手の新規参入が促進されているほか、就業者向けの研修も充実している。途中でやめてしまう者もいるが、職場は変わっても林業界にとどまって頑張る者もいて、人材の層は確実に厚みを増している。
ところが、製材業については、人材の確保や育成に関する公的な支援はほとんどない。最近は各地で大型製材工場が増加しているが、中小工場は次々と姿を消している。経営力に乏しい業者が生き残れるほど甘い経済情勢ではないが、優秀な人材を確保できれば道が開ける可能性もある。木材に対するさまざまなニーズに応えることが林業にもプラスになることを思えば、製材業界版「みどりの雇用」事業があってもいいのではないか。
林業地に居を構える製材業者が元気になれば、山間地域の経済振興も期待できる。山を生かす製材の役割に光を当てたい。
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