食べる

主食タイプ充実で市場拡大  完全栄養食、参入企業も増加  川崎順子 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員

2023.05.16

ツイート

主食タイプ充実で市場拡大  完全栄養食、参入企業も増加  川崎順子 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員の写真

 少子高齢化と被介護高齢者の増加、コロナ禍のストレス・生活習慣病の悪化、子供の孤食・偏食問題などが取り沙汰される中、現代日本において、健康の維持増進や健康寿命の延伸は国、自治体、企業、個人のいずれにおいても大きな課題となっている。しかしながら、食を中心とした生活習慣の改善が進んでいるとは言い難い。こうした背景のもと、手軽に必要な栄養素を摂取できる「完全栄養食」が注目されている。(写真はイメージ)

 完全栄養食は米国で誕生したとされ、日本では2015年ごろから開発が始まった。16年には完全栄養食をコンセプトとし、「トータルバランスドモデル」と銘打った食品(水などの液体に溶かして摂取するパウダータイプの食品)が発売され、続いて完全栄養の主食(パスタ)も登場して、市場が立ち上がった。

 完全栄養食に明確な定義はないものの、一般的には厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準」や、同基準に合わせて設定された消費者庁の「栄養素等表示基準値」をベースに、1食で1日に必要な栄養素の3分の1以上を摂取できる食品、または33種類の必要栄養素をバランスよく含む食品で、「完全栄養」であることを訴求する商品と考えられている。通常の食生活では不足するリスクが低い、あるいは過剰摂取になる恐れがある栄養素や熱量を、抑制している食品もある。

 完全栄養食市場には大手食品メーカーから外資系企業、スタートアップまでさまざまな企業が参入しており、商品もパウダータイプのほか、手軽なバータイプやドリンク、グミ、アイスクリーム、みそ汁と、多種多様である。最近は普通の食事のような、主食タイプ(パン、米飯類、麺類)も充実している。

 完全栄養食の需要動向は、商品の特性によってターゲット層が異なる。主食のパンやパスタ、クッキー、ドリンクなどは、「置き換えダイエット」を主目的とする人の利用が多い。

 一方パウダータイプは、食事よりも趣味や仕事に時間を使いたい、"食をおろそかにしがちな人"に支持されている。完全栄養食は飽食の時代に健康的にダイエットをしたい人と、ともすれば食べることを忘れてしまう人が利用するという点で、ユニークな食品であり幅広いニーズに対応している。

 矢野経済研究所は2022年度の完全栄養食の市場規模は、160億円だったと推計している。16年に立ち上がった国内の完全栄養食市場には、19年に日清食品が参入して注目された。

 完全栄養食は当初、「ディストピア飯(未来の管理社会で摂取させられるような味気が足りない食べ物)」とも呼ばれ、食事に時間をかけずに手軽に栄養を摂取したい人々に支えられていた。その後コロナ禍で健康志向がにわかに高まる中、パンやパスタ、米飯といった主食商品の充実によって一般消費者にも受け入れられるようになり、市場の急成長につながったと考えている。

最新記事