京都・阿蘇海の未来はハマグリにあり 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.05.01
京都府の北部、宮津湾に北へ向かってのびる天橋立。その西側に位置する内海の阿蘇海は、2000年代まではさまざまな貝が採れる豊かな海だったそうだ。この地で生まれ育ち、19歳で祖父の跡を継いだ若き漁師、村上純矢さん(28)は、二枚貝の漁獲量が激減した過去をこう振り返る。
「アサリが減り、オオノ貝も減り、ついに消えてしまいました。今後、もしハマグリまでなくなったら、この海の未来はない。やばいな、と思ったんです」
そこで村上さんは18年以降、地域漁業者の合意を取り付け、京都府農林水産技術センター海洋センターの指導を仰ぎながら、ハマグリの資源管理にまい進してきた。漁期と操業時間の設定に加えてサイズと個数制限も行い、資源量に対して漁獲率が30〜40%に達したら終漁という厳格な手法を採用したのだ。実はその実績とリーダーシップから、村上さんは昨秋、「ジャパンサステナブルシーフードアワード」のU30部門でチャンピオンに輝いている。
私たちフードジャーナリストと東京のトップシェフ約30人で作る「Chefs for the Blue」のメンバーである東京・四谷「御料理ほりうち」の堀内さやかさんは、村上さんのハマグリを2年前から購入している料理人だ。(写真:アワードトロフィーを持つ村上さんと堀内さやかさん=右)
彼女が調達するのは売れ筋ではない大きなサイズ。一般的に、資源管理を進めるためにはなるだけ大きな成熟個体から漁獲し、産卵前の小さな個体は海に残すことが有効なのだが、柔らかくお椀に仕立てやすい小ぶりのものから売れるハマグリは、大きなサイズが売れ残ることが多い。
「みんなが使いたがらない(大きな)サイズを引き受けて、料理人の技量でおいしい料理に仕立てることが、私の果たすべき役割ではないかと考えました。だから、私は村上くんに『引き取り手がいないハマグリを送ってね』と伝えているんです」
志の高い漁業者の取り組みをサポートするため、そしてもちろん海の豊かさを取り戻すため、料理人にできることは何かを考え続けた堀内さん。少し硬めの身は細かく刻み、香ばしく揚げてがんもどきに仕立てるなど、その旨味の強さを生かした料理をさまざまに開発、提供している。
「御料理ほりうち」で今年、村上さんのハマグリを使った料理を味わえるのは4月中(要予約)。料理人と漁業者の間のこのような心の通った関係性が、日本各地にたくさん生まれることで、よりよい海の未来をつくることにつながればと思っている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月17日号掲載)
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