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二股ニンジンの行方  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2023.05.01

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二股ニンジンの行方  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」の写真

 私たちがスーパーで見かけるニンジンは、真っすぐでほどよくふくよかで、傷も虫食いもないものばかりである。そんなことは当然で気にも留めないけれど、少し想像力を働かせると、自然の中で育つニンジンがみなそうであるはずがないことに気づく。二股ニンジンだって、育ちすぎニンジンだってあるはずだ。

 外観が一定基準を満たさない農産物は「規格外農産物」と呼ばれている。農産物の出荷にあたって、外観に関する規格が設けられることが多く、それに合わないものが規格外農産物になる。規格外農産物は農家で自家消費されたり加工品に利用されたりもするが、相当な量が食用に回らないといわれている。

 生産現場で廃棄される農産物は規格外だけではない。天候の影響で農産物が過剰にできた時も廃棄される。できた農産物をすべて出荷すると、市場の価格が暴落しコスト割れしてしまうためだ。国際NGOのWWFの推計によれば、世界全体では生産された野菜・果物の26%が生産段階で廃棄されているという。

 一方で近年は、出荷できない農産物を捨てずに活用しようという動きも活発になりつつある。「デイブレイク」(東京)では、規格外や過剰生産で出荷できない果物を生産者から購入し、特殊冷凍加工してフローズンフルーツを製造している。果物の中には、完熟で一番おいしい状態にもかかわらず、やわらかすぎて出荷できないものもあるのだが、冷凍加工によってそのような物流問題も解決している。特殊冷凍により、完熟果物のおいしさも保ったまま製品化できるという。ベーカリー「PAUL」で近々販売予定があるそうだ。

 学生たちも動き出している。東京農業大学の学生グループ「VIVA GREEN」は、有機農産物の規格外品を飲食店で利用してもらう活動を始めた。廃棄農産物の削減と有機農業応援という二つの側面からの持続可能性への挑戦だ。現在、ブラジル料理店「Churrascria Quebom! 浅草店」で規格外品を使ったメニューが提供されている。(写真:有機農家の二股ニンジン=VIVA GREEN撮影)

 規格外農産物をそのまま消費者に安価に販売する取り組みも見られるようになってきた。生産者は農産物を廃棄せずに済み、消費者は安く手に入れられる一石二鳥の取り組みだ...と評価したくなるけれど、この方法には少し注意が必要だ。

 消費者が通常の価格で普段購入している農産物の代わりに、安価な規格外農産物を購入すれば、国産農産物の市場が縮小するからだ。日本は食料自給率を高めることが喫緊の課題で、そのためには国産農産物の市場が活発になることがとても重要だが、それに逆行してしまう。

 規格外農産物を活用する際には、通常の国産農産物の需要を奪わない形で販売すること、むやみに安値にしないことを念頭におく必要がある。真に持続可能な方法で、規格外農産物がますます活用されていくことを願うばかりだ。


 野々村真希(ののむら・まき)さん 東京農業大学国際食料情報学部食料環境経済学科准教授。京都市出身。京都大学農学部卒。2019年から東京農業大学、研究内容は食品ロス、食生活など

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月17日号掲載)

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