間伐技術がものをいう 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2023.05.08

「人工林」とは人の手で植えられた森林のことで、スギやヒノキ、カラマツといった針葉樹である場合が多い。育て方のポイントは、木々の密度を適切に保つための間引き作業である「間伐」をきちんと行うことだ。
良質な木材を育て、自然環境も健全に維持するには、間伐を適切に行わなければならない。いつどのくらいの木材を生産するかの目標に合致した状態に誘導するのも、間伐をどの程度行うかの判断にかかる。
例えば、80~100年、あるいはそれ以上もの長期にわたって木を育て続けるなら、木が太りやすいように強めの間伐で本数を減らす判断もあり得る。しかし、50~60年ほどですべての木を伐採する皆伐を行うなら、途中の間伐は控えめにして木を多く残しておいた方が皆伐時の生産量が多くなり、作業効率が高まる。(写真:適度な密度で管理された山林。現場の技術を高めたい=筆者撮影)
ただ、間伐に対する補助金は、間伐材をより多く搬出して利用した方が補助率が高くなる仕組みになっていて、補助金が多く使え、間伐材の売上も増えるからと、強めの間伐が行われるケースが多い。長く育て続けるならその判断も間違いではなかろう。実際、国の林業政策も10年ほど前は間伐を繰り返して長期間育て続けることを奨励していた。
ところが、その後、方針が変わり、現在は皆伐を行って若い木に植え替える「皆伐再造林」が強く推進されている。それに合わせて皆伐をしようとしても、これまでの間伐で木の本数が少なくなっているため、生産効率が上がらないというケースが各地で見られるようになっている。
最近訪れた山林は植えてから60年ほどが経った人工林だったが、明らかに間伐し過ぎで立木の本数が少なく、皆伐で採算を合わせられる状態ではなかった。管理担当者は「うちは政策に合わせてやってきたので」と苦笑いし、「今度は皆伐をやれと言われてもねえ」と不服げに話した。
長期間育て続けるか、短い伐期で回していくかは、経営者や管理者の戦略により、優劣はない。政策に振り回されずに済むように林業現場の技術力を高める必要がある。
赤堀 楠雄(あかほり・くすお) 林材ライター。1963年生まれ、長野県在住。林材新聞社(東京)勤務を経て99年に独立。森林・林業・木材・木造住宅などに関する取材、執筆を行う。著書に「林ヲ営ム〜木の価値を高める技術と経営〜」(農文協)など。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年4月24日号掲載)
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