消費者反応を「見える化」 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2023.05.15
炭素社会実現に向けて、農業・食料産業が目指す道筋を定めた「みどりの食料システム戦略」。化学合成農薬や化学肥料の削減などもっぱら"生産側"の目標が示されているが、鍵を握るのは"消費側"。生産振興に伴い需要が伸びてこそ戦略は功を奏す。
その意味で、農林水産省が始めた「温室効果ガス削減見える化実証事業」に注目している。温室効果ガスの削減率が一目でわかるラベルを農産物に貼るという取り組みだ。農家は同省開発の「GHG簡易算定シート」を使い、化学肥料や農薬の使用状況、たい肥投入、中干し期間延長など温室効果ガス削減につながる取り組みを入力。すると、削減度合いにより、星付きのラベルが発行される。5%以上の削減率で星一つ、10%以上で星二つ、20%以上で星三つ。
農水省は、参画する農家とともに、農家の農産物を販売する協力店舗を募り、消費者の反応を検証する実証事業を2022年秋から開始。23年3月7日時点で、協力店舗は小売店や飲食店、ECサイトなどが23社、103カ所だ。
協力店舗の一つが、道の駅あがの(新潟県阿賀野市)。施設内の農産物直売所に出荷する稲作農家が参画することを知り、協力店舗として名乗りを上げた。期間中(22年12月25日~23年3月31日)、星二つのシールが付いた農家のコメ(写真)を販売するだけでなく、店頭広告やポスターも展示するなど情報発信に力を入れた。
駅長の坂井文さんに消費者の反応を聞くと、「何かな」「どういう意味?」と足をとめる人、「こうした取り組みをしている農家をサポートしたい」とまとめ買いしていく人もいたそうだ。坂井さんはまた、スタッフの理解の高まりも実感した。ポスター作成などを通じ、スタッフが率先して温室効果ガス削減について理解したことを成果として挙げた。
「道の駅を訪れる人は不特定多数の方で、必ずしも環境保全に関心が高い人ばかりではない。そういう人にも分かりやすく伝わるよう、まずは自分たちが知ろうという意気込みを感じました」。農家からも「どうすればシールを貼ることができるか」と問い合わせがきたという。
実証事業への反応は決して鈍くないようだ。取り組みが広がれば、より大勢の目に触れやすくなる。GHG簡易算定シートのマニュアルを見る限り、10㌃当たりの生産費を計算・入力するなど作業は煩雑だ。このあたりを改善していく必要があるが、消費者の反応を「見える化」していくことは、産地が方向性を見極める上でも役立つだろう。
青山 浩子(あおやま・ひろこ)さん 新潟食料農業大学准教授・農業ジャーナリスト。1999年からジャーナリストとして、全国の農業現場を取材し、雑誌・新聞などに寄稿。2018年新潟食料農業大学講師、22年から現職。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年5月1日号掲載)
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