緊張感持ち知恵を出せ 本気度足りない政府の基本法検証 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2022.12.12
政府の食料・農業・農村基本法の検証作業の行方が注目される。ついに食料安全保障の確立に向け「本気モード」の姿勢だが、検証の様子を見ると、集中度、緊迫度、課題に立ち向かう積極さ、中長期的な展望意欲などさまざまな面で物足りなさを感じてしまう。補正予算で1000億円超の「食料安保予算」が組まれたのは歓迎だが、国民の不安への対応や理解のためにも早めの対応を求めたい。
物足りないのは例えば課題、論点の抽出。食料自給率低下の原因はさまざまあろうが、特に農政の運営にどんな問題があったのか。それを探るには単に各界識者から意見を分散的に集めるだけでなく、テーマを決めて専門家や現場関係者で集中的に分析検討が必要ではないか。
それを踏まえ、今後、現場農家、消費者、行政関係者などにどう協力をもらうのか。そのために内閣の変遷で簡単に方針が終わることのないよう、国民の認識や目的を共有し合うために、国民運動の盛り上げなどどんな方策があるか緊迫感を持って知恵を出し合うべきだ。
自民党の江藤拓・総合農林調査会長はJAグループ関係の集会で「食料安保の確立にはこれから5年間が本当の勝負」と語ったが、国内農業にそれだけの猶予があるのか。例えばこの間の20年余りで農地面積は11%減り、基幹的農業従事者数は48%減と半減した。コスト高を反映しない作物価格の低迷で農家の景況感は今、「過去最悪」(日本政策金融公庫)。このままでは農家のリタイアは加速しないか。
今夏、同公庫奈良支店などが奈良県内の肉牛、酪農、養豚、養鶏など農家113戸に実施した調査では「3年以内に廃業」が12%、「10年以内に廃業」は半数近い46%だった。他方、日本不動産研究所の調べで、田んぼの価格が1993年以降30年連続、畑も31年連続のそれぞれ下落(2022年3月末)。田は92年のほぼ半値だ。「後継者の減少」、「買い手がいない」などが理由だが、要は土地利用型作物で農家の生産意欲を長期間全く刺激できなかったことを意味する。これでは国民が望む食料自給率のV字回復はできない。
現行基本法制定当時の農政改革大綱(1998年)では「市場原理を重視した価格形成の実現」など、生産コストを軽視した方針を提示。食料供給に初めて「輸入」が明記され、その後の相次ぐメガFTA(自由貿易協定)で一層の農業の市場開放の伏線となった。第2次安倍政権下では基本法を無視した「官邸農政」が農家の意欲をそいだ。
農政の検証は農政当局を自ら指弾することでもあり、つらく厳しいことは確か。しかし、本気で食と農業を守るなら「今こそ現在の政策を洗いざらい並べて検討すべきだ」(皆川芳嗣・元農水事務次官)とは真っ当な発言として評価したい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年11月28日号掲載)
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