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農地は「1丁目1番地」か 花粉も輸入に依存 アグリラボ編集長コラム

2023.12.07

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 秋の出荷を終え、ナシの栽培農家にとって通常なら一息つける冬を迎えた。しかし、今年は事情が異なる。来季の生産に必要な花粉を確保しなくてはならない。

 異変は、中国の北西部で始まった。果樹の病害である火傷病(かしょうびょう)が発生、農水省は8月末に中国産ナシ花粉の輸入を停止した。火傷病は、リンゴ、ナシ、ビワなどのバラ科の植物に感染し、木全体が枯れることもある。昆虫や風雨で伝搬され、花粉を媒介し感染する場合もある。有効な防除法は確立されておらず、感染すれば伐採するしかない。

 輸入停止による影響は甚大だ。同省の推計では、国内のナシ栽培面積の約3割が中国産花粉に依存、主産地の千葉県の調査では県内の栽培農家の約6割が中国産花粉を購入している。

 花粉は自給が可能だが、省力化、効率化のため中国産への依存が強まった。採取するには、専用の授粉樹を育て、花を摘み、花粉が入っている葯(やく)を加温して開かせるなど手間がかかる。高木に付くナシの花から花粉を採取するには脚立が必要で、危険も伴う。

 専門家の間では、花粉の海外依存のリスクが認識され、授粉樹の樹高を低くするなどの栽培技術も開発されている。鳥取県では自給率が向上しているが、人材難の地域では輸入に頼る傾向が強い。

 ナシのように、「国産」であっても原料や資材を輸入に依存する例は、挙げれば切りがない。リンなど肥料の原料や家畜の飼料は輸入依存度が高く、価格の高騰で経営を圧迫している。野菜の自給率は約80%だが、野菜のタネは90%以上が輸入だ。

 鶏肉も、種鶏(しゅけい)や種鶏の親である原種鶏は約90%を英国に依存している。鳥インフルエンザの発生などでヒナ鶏の輸入が滞れば、鶏肉の生産に大きな影響が生じる。

 こうした事例は、国内生産がサプライチェーン(供給網)の源流ではなく、中流に位置していることを示す好例だ。食料安全保障の議論は、国内生産が起点となりがちだが、大きな間違いだ。

 例えば、自民党の農林議員のトップである森山裕同党総務会長は「食料安保の根本は人と農地。特に農地総量の確保は基本法見直しの1丁目1番地だ」と述べ、生産現場を最重視する。しかし、サプライチェーンに着目すると、生産現場の川上にはさらに生産を支える資材、素材、原料の産業があり、その源は世界中に広がり、編み目のように複雑に絡み合っている。これらすべてを国内生産に置き換えるのは不可能だ。

 もちろん、人と農地は重要だが、調達ルートの複線化など輸入の強化や備蓄は即効性があり現実的な対策だ。国内生産、輸入、備蓄はいずれも同様に重要であり、それぞれに役割がある。「1丁目1番地」のように序列を付けるのはナンセンスだ。(共同通信アグリラボ編集長 石井勇人)

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