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「農業版・新しい資本主義」は実現するか  フランス制度の研究始まる  アグリラボ所長コラム

2022.10.30

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 農林水産省が農産物や食品の「買い叩き」を規制するフランスの制度の調査・研究を始めている。価格の形成を市場に任せず、規制を重視する点で「新しい資本主義」と言える。問題はその実現性だ。

 1028日に岸田文雄首相が発表した総合経済対策には驚いた。20兆円規模といわれていた2022年度第2次補正予算は、直前に25兆円に増え、最終的に29.1兆円に膨張した。目玉の「新しい資本主義」の項目には、電気・都市ガス料金の補助や出産手当が盛り込まれた。主要メディアでは「出産と資本主義との間に何の関係があるのか」「財政規律を喪失する」など、批判的な論調が多い。

 しかし「新しい資本主義」が政府の役割を重視する「大きな政府」という思想に基づいているならば、お金をばらまく財政拡大は、長期金利の上昇を国債の買い入れで強引に抑制する日銀の金融政策や、新型コロナの感染対策にみられるような規制を重視する姿勢と整合しており、持続可能かどうかは別として理屈は通っている。

 岸田首相は「聞く耳」を持ちすぎているためか、「小さな政府」を本旨とする新自由主義からの決別を明言できず、「アベノミクスを継承する」などと発言するから混乱するが、今回の総合経済対策は、財政拡大、市場介入、規制強化を柱とする「大きな政府」そのものだ。この方向性が続くとすれば、農産物の適正な価格形成を促すフランスのエガリム法は、学ぶべきモデルとして参考になるだろう。

 2018年に施行された同法は、適正な取引関係のほか、有機食材の公共調達、地産地消の推進、フードロスの削減、動物福祉の強化、農薬やプラスチック使用の削減などを含む包括的な内容で、その中に大手流通業者による「買い叩き」の防止が盛り込まれている。

 具体的には契約の際に生産費を考慮することを義務付け、生産費や原材料費については原則として値下げできないようにして、生産者の収入の確保を促す仕組みだ。実効性を高めるため、書面契約を義務化し、契約内容が不公平な場合は救済申し立てができるようにする修正が検討されており、フランス政府は来年に改正法の施行を目指している。

 野村哲郎農相は1028日の記者会見で「(エガリム法を)勉強している」と述べ、農水省内で調査・研究を進めていることを明らかにした。フランスでは食品流通を巨大スーパーが寡占するなど日本とは事情が大きく異なり、同様の制度を日本に導入するのは難しいが、価格の決定を需要と供給のバランスを原則とする市場機能に任せず、コストの積み上げを原則とする新たな制度が実現すれば、画期的で「新しい資本主義」の象徴になりうる。

 問題は市場に介入する「大きな政府」が持続可能かどうかだ。エガリム法は実効性が上がらず、手直しが繰り返され試行錯誤の状態だ。英国ではトラス政権の「大きすぎる」財政政策に対して通貨ポンドと英国債の暴落という金融市場の反乱を招き、政権は2カ月足らずで瓦解した。岸田政権そのものの持続可能性も怪しい。内閣支持率は低迷が続き、今のところ日本版エガリム法は「勉強」だけで終わる可能性が高い。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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