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「完全栄養食」コンビニでも  おいしく試せる最先端  畑中三応子 食文化研究家

2022.10.03

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「完全栄養食」コンビニでも  おいしく試せる最先端  畑中三応子 食文化研究家の写真

 かつて「完全栄養食」は、他の食品にくらべて各種の栄養素を豊富にバランスよく含む食品のことを指した。その代表格が卵と牛乳だったが、両方とも食物繊維をまったく含まないなど足りない栄養素もあって、「完全」はあくまで比喩的な表現だった。

 しかし、米シリコンバレーのITエンジニアのあいだで、「人間が生きるのに必要な栄養素すべてを配合」したとする完全栄養ドリンク「ソイレント」が流行してから定義が変わった。

 ソイレントに近い日本初の完全栄養ドリンク「コンプ」発売は2015年。その2年後には「ベースパスタ」がお目見えした。ともに厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」に基づき、1日に必要なたんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの5大栄養素と必須脂肪酸など合わせて約30種の3分の1量が1食でバランスよく取れる。語義通りの完全栄養食だ。

 想定された購買層は食生活が不規則になりやすい30代のビジネスパーソンだったが、使い慣れた麺のベースパスタは幅広い層に受け入れられた。もちもちとした食感の生麺タイプで、見た目はパスタというよりそばに近く、親しみやすい。

 続いて同じコンセプトのパンシリーズ「ベースブレッド」が発売され、現在は大手ドラッグストアやコンビニにも並ぶ。とくにチョコ、メープルなどの甘い菓子パンタイプは「罪悪感なし」で楽しめ、健康増進に役立つおやつとして人気だ。(写真:コンビニで手軽に買える「完全栄養食」、筆者撮影)

 若い世代以上に、完全栄養食が求められるのはシニア世代である。もしもっと少量でも必要量が完璧にクリアでき、食べておいしい完全栄養食が開発されたら、食が細くなって必須栄養素が取りづらい高齢者にとって福音になるだろう。

 これら新・完全栄養食の原型が、1983年に誕生した大塚製薬の「カロリーメイト」だった。点滴ではなく、「口から十分に栄養が取れるものを」という考えから開発がはじまった。ヒントにしたのが、栄養素がバランスよく含まれて消化吸収がよく、排せつは最小限、コンパクトでいつでも手軽に食べられるよう設計された宇宙食だったという。

 完全栄養食の流れを一気に加速させそうなのが、日清食品の「完全メシ」シリーズである。ラインアップは、カップ麺、カップカレーライス、グラノーラ、スムージー2種の計5品で、今年5月に発売された。
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 麺とカレーは「油そば」「欧風カレー」と、あえてガッツリ濃厚そうなのがおもしろい。SNSにも「ジャンクフードに完全栄養を達成したのがすごい」という声がたくさん挙がった。

 麺は外側を小麦ベースの層で包み込み、栄養素を内側に封じ込めた3層構造で苦みを感じにくくし、コメは一度分解して糖質などを除き、食物繊維やビタミン、ミネラルを強化して成形するといったフードテック(食のテクノロジー)を駆使し、熱量は500㌔㌍以下に抑え、塩分も控えめだ。

 ベースブレッドも完全メシも、予想以上においしい。こればかり食べていたら、サイボーグみたいな気分になりそうだが、きちんとした食事が取れないときには便利。気軽に試せる最先端のフードテックである。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年9月19日号掲載)

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