敷けるか農政の軌道 JA出身の野村哲郎氏 小視曽四郎 農政ジャーナリスト
2022.09.19
第2次岸田改造内閣の農林水産相に参院議員の野村哲郎氏(78)が就任した。野村氏はJA鹿児島中央会に35年務めた。JA職員として「大臣、お願いします」と腰をかがめていた身分が逆に頼まれる側になり、本人はもとより組織内の喜びは大きい。「全面的にサポートしたい」(JA全中)との声もうなずける。(写真:香港輸出支援プラットフォーム立ち上げ式に臨む農相=13日、野村氏のHPから)
関連記事:食料安保対応で農政通起用 アグリラボ所長コラム
農業現場で成功体験を持ち、国政レベルでの農政運営にも精通し、かつ農業再建にかなりの情熱を持つ人物が農政の陣頭に立つ例は多くなく、注目している。
野村氏はコメの減反が始まる1969(昭和44)年、鹿児島県農協中央会に入会。以来、地元農業の基軸を畜産などにシフトした振興戦略を進める一員になった。その結果、今日、和牛生産は日本一、かごしま黒豚などのブランドを確立した。農業生産額は北海道に次ぎ、都府県では4年連続トップ(2020年)、農産物輸出も142億円の農業大県になった。
こうした経験は現場農家をどう励まし誘導し、地元行政や消費者、流通関係者などどう連携するかなど食料安保確立への道筋づくりに役立つ重要な経験だ。
心強い後ろ盾も控える。04年、中央会常務理事から参院選に出馬し当選。この時、自民党の出馬枠を譲ったのが今や、自民党農林族で食料安保推進の先導役、森山裕元農相(党選対委員長)だ。森山氏は当時、畜産界のドンといわれた山中貞則元代議士の死去に伴い、参院から衆院にくら替えしたばかり。この時、森山氏が信頼してバトンを渡したのが、野村氏だった。
それだけに「最もふさわしい人物が(農相に)なってくれた」(森山氏)と全面支援の構えだ。野村氏は「農政一筋で温厚で駆け引きのない誠実な人柄」(JA幹部)だという。
野村農相は「(やることは)選挙の時から言っている食料安全保障。それ以上はない」とキッパリと言明。農水省幹部職員への訓示では「(食料安保確立へ)今年をターニングポイントにしないといけない。日本の農業を変えていく」と歴史的な「農政転換」を目指す、げきを飛ばした。
ただ、今年11月には79歳。高齢を懸念する声があるのも事実だ。いかに意欲的でも変化する時は壁が立ちはだかるのが世の常で、しかも、閣僚の寿命は長めでも1年前後。限られた時間で新たな農政の軌道をどこまで敷くことができるのか。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年9月5日号掲載)
最新記事
-
米粉代替作戦 小視曽四郎 農政ジャーナリスト 連載「グリーン&ブル...
コメがついに麺にも抜かれた、と総務省調査(2人以上家庭、平均世帯人員2.91人...
-
国産FSC認証広葉樹材を販売 堀内ウッドクラフト
日本森林管理協議会(東京都世田谷区、FSCジャパン)は、木工品製造販売の堀内ウ...
-
ウクライナ支援で一致 週間ニュースダイジェスト(4月16日~22日)
先進7カ国(G7)農相会合が宮崎市で、2日間の日程で開幕した(4月22日)。ウ...
-
「地域創生」五感で学ぶ 東京農大「食と農」の博物館が企画展
東京農業大学(江口文陽学長)の「食と農」の博物館(東京都世田谷区)は21日、企...
-
漁師さんが「かわいい」と気付いた日 中川めぐみ ウオー代表取締役 ...
水産の世界は物理的な距離よりも、精神的な距離が遠い。水産業界以外の方と、こんな...
-
花粉症対策でスギの伐採加速 週間ニュースダイジェスト(4月9日~15...
政府は首相官邸で花粉症対策を議論する初の関係閣僚会議を開き、岸田文雄首相は6月...
-
2030年に市場規模2100億円へ 食料変えるアグリ・フードテック ...
近年、激化する気候変動などの影響から、世界の食料事情が不安定さを増す中、アグリ...
-
イノベーター養成アカデミー来春開講 社会人も、最短1年で修了 AF...
AFJ日本農業経営大学校(東京都港区、合瀬宏毅校長)は11日、オンラインを活用...
-
施設園芸用モニタ装置を提供 ファーモ、北海道ボールパーク内の施設
スマート農業を推進するIT企業のファーモ(宇都宮市)は、北海道日本ハムファイタ...
-
生産拡大と持続可能性の両立を議論へ 週間ニュースダイジェスト(4月2...
気候変動やロシアのウクライナ侵攻で食料の安定供給が世界的な課題となる中、先進7...