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食料安保対応で農政通起用  新農相に野村哲郎参院議員  アグリラボ所長コラム

2022.08.10

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 第2次岸田改造内閣の農林水産相に、野村哲郎参院議員(78)が就任した。農業政策を決定する重要局面で非公式に開かれる幹部会「インナー」のメンバーであり、農林議員の重鎮だ。約35年勤めたJA鹿児島県中央会で常務理事まで務め、農水官僚とも太いパイプがあり、複雑な農政を知り尽くしている。「有事に対応する(中略)経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用」という岸田文雄首相の期待に応えられる数少ない農政通であることは間違いない。ただし、問題は肝心の農業政策が「先祖返り」していることだ。

 野村氏は茂木派所属だが、インナーの事実上のトップで元農相の森山裕自民党選挙対策委員長とも気脈を通じる。農林水産政務官、自民党農林部会長、参院決算委員長などを務め、7月の参院選(鹿児島選挙区)で4期目の当選を果たした。高齢でもあり「入閣待機組み」の1人として処遇され、初入閣した。(写真:野村氏のHP掲載の動画から)

 JAグループが全国組織の代表として参院に送り出している議員とは「母体」が異なることもあり、安倍晋三政権がJAグループの抜本的な改革に乗り出した時も敵視されることはなく、歴代の農相、農林部会長など要職の経験者のうち10人程度しか参加できないインナーに、参院を代表する形で名を連ね続けてきた。

 新たな農相にとって「有事」とは、世界的な食料危機だ。自民党は先の参院選で食料安全保障の重要性を訴え、農林議員からは通常の予算とは別枠で「食料安保予算」を確保するという踏み込んだ発言も飛び出し、農政関係者の間では事実上の公約として受け止められている。

 しかし食料安保は本来、幅の広い概念で、大局的で中長期的な観点から議論すべき課題だ。ウクライナ戦争に伴う燃料や肥料など資材価格の高騰で、多くの生産者が苦境に立っていることは事実だし、緊急対応として生産者を財政面で支えることも必要だが、食料安保を農業予算の拡充にすり替えるのは大間違いだ。

 7月の参院選では、農業分野の規制改革の推進を主張する日本維新の会が躍進した。一方、自民党は「規制改革が現場にとって本当に良かったのか検証する」(岸田首相)と争点を外しつつ、改革路線からは目立たない形で後退している。

 安倍政権下で小泉進次郎農林部会長らが主導した「農業改革」は何だったのか。その総括もないまま、農政はゆっくりと先祖返りしている。その象徴が、インナーという閉ざされたムラ社会から、年功序列で選び出された閣内最高齢の農相だ。改革からはほど遠い人事と言えるだろう。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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