魚の付加価値を高める 資源管理下の課題に 佐々木ひろこ フードジャーナリスト(Chefs for the Blue代表)
2022.05.09
「初回の時は、『残念だけど、このタコはうちの店で使える品質じゃない』という評価だったんです。ショックでしたね...」
北海道の西岸、留萌市苫前町でミズダコ漁を行う漁師、小笠原宏一さんが1年前を思い返して笑った。2020年の夏のこと、東京・青山のレストラン「The Burn」に自身が獲ったミズダコを商品サンプルとして送ったところ、米澤文雄シェフ(当時)の評価がとても厳しかったというのだ。
「でも悔しくて(評価を覆すために)品質管理の精度を上げる努力をしたら、翌シーズンには『見違えるほどおいしくなりましたね』と言っていただけて。そしてお店と取り引きが始まったんですよ。よっしゃー!とガッツポーズでした(笑)」(写真:ミズダコの樽流し漁=小笠原さん提供)
2018年末の漁業法改正を皮切りに、日本の海でも公的な水産資源管理に向けた取り組みが進んでいる。それを受けて水産現場では、限られた海の恵みを最大限に活用する必要性や切迫感が高まっている。今後魚種ごとに漁獲枠が設定されていく流れにあって、漁獲量をこれまでより抑えつつ収入を担保するためにはどうすればいいのか、というリアルな問題が、漁業者の目前に迫っているからだ。
その解のひとつとして、漁獲される水産物の付加価値を高め、一点一点の取引価格を上げることが注目されはじめている。魚の品質とは実は、もともとの個体のポテンシャルだけでなく、漁獲時の扱いやその後のさまざまな工程ーつまり冷やしこみや締め方などの「処理」、丁寧なフィレ加工や急速冷凍などの「加工」、水揚げ以降消費者の手元に届くまでを考えた「温度管理」ーなどに左右されるケースがとても多いためだ。
私たちChefs for the Blueは、持続可能な海と食文化を未来につなぐことをミッションに啓発活動を続ける料理人チームだが、前段に述べた背景などにより、魚の品質向上に向けたサポートをさせていただくこともある。特に、海の持続可能性向上に取り組む志の高い漁業者のサポートは積極的に引き受けていて、先のミズダコ漁師、小笠原宏一さんもその一人だ。
魚の付加価値を高めることは、漁業者が「少なく獲って適正に稼ぐ」ことにつながり、いい魚を手に入れたい消費者にとっても、そして海にとっても良いことが多い三方良し。今後もずっと続けていきたい活動の一つである。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年4月25日号掲載)
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