森林資源活用で地域創生 持続可能な木質バイオマス 鍋山徹 日本経済研究所チーフエコノミスト
2022.04.04
地球の年平均気温が上昇することに起因する気候変動への対策として、欧米諸国や中国など世界の主要国が、温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボン・ニュートラル(以下、脱炭素社会)へ大きくかじを切った。日本政府も2020年、長期目標として温室効果ガスの排出を50年までに全体としてゼロにする脱炭素社会を目指すことを宣言。実現への一つの手段として、森林資源の活用に大きなヒントがある。
グリーン成長戦略
経済産業省「2050年カーボン・ニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、「エネルギー」「輸送・製造」「家庭・オフィス」の3部門と14の産業分野から構成されている。
2030年と2050年の"ツーステップ"で、前者は既存の技術を活用した効率化・省エネルギーの推進、後者は革新的な次世代技術の社会実装が中心である。
後者においては、キーテクノロジーと位置づけられている水素をはじめ、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要がある分野が目立つ。
林業との関わりでは、森林資源の循環利用から都市部での木造建築物の普及拡大に至るまで、広範な領域に及んでいる。
木質バイオマス(生物資源)エネルギーの利用や、交配を重ねた高品質樹木であるエリートツリー(成長スピードが1.5倍)の開発など、既存の技術活用の延長線上にある効率化・省エネルギーが中心であるため、林業が果たすべき役割は明確になっている。
バイオマスはまずは、製材など原料としての「マテリアル利用」、最終的には発電、熱や輸送燃料での「エネルギー利用」というカスケード(段階的)利用が可能である。
このうちバイオマス発電については2022年4月より、再生可能エネルギー由来の電力を固定価格で買い取るFIT制度に加えて、電力卸市場への売却など市場価格にプレミアムを上乗せするFIP(フィード・イン・プレミアム)制度が創設される。
一定規模未満のバイオマス発電などにFIT制度が適用される地域一体型の地域活用要件について、自家消費の比率や熱の常時利用などの事業計画策定ガイドラインが示されている。
事業採算性
バイオマス発電の課題は、設備の安定稼働のほかにも数多くある。規模が大きいほど事業採算性が良くなることから大型発電所計画が相次ぎ、同制度により2020年9月時点で、計446カ所、244万㌔㍗のバイオマス発電所が稼働し、同じく709カ所、822万㌔㍗が認定されている。
稼働容量の約6割、認定容量の約9割が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分になっている。
そのため、東南アジアのアブラヤシ農園開発(パーム油)や北米の自然林皆伐(木質ペレット)など、環境問題との関連性が指摘されている。
LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点では、木材燃焼で排出された炭素は適切な再造林をしなければ回収できないほか、発電効率も30%以下と低い。
これからの木質バイオマスエネルギーの持続可能な姿は、①地域の中のエネルギーを自給するために必要な小規模なものを前提にすること②燃料は廃棄物系をメインにすること③発電中心から、利用効率が60~95%と高い熱電供給(コージェネレーション)や熱利用中心へと移行すること、である。
ドイツや北欧諸国では、自然エネルギー主体のローカルなエネルギーの循環による地産地消型の経済をめざしている。
産官学民の英知を集め政府へ政策を提言する日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は2021年6月開催の第7回「林業復活・地域創生を推進する国民会議」で、地域エネルギーを軸にした経済循環の先行事例として真庭バイオマス発電事業(岡山県真庭市)を採り上げた。
燃料となる原料は製造工程から出る副産物や間伐材など林地残材に限定し、発電した電力は地域の公共施設で消費されている。
木材サプライチェーンを一元管理して、森林所有者へ利益の一部を直接還元している。また、「GREENable (Green+Sustainable)プロジェクト」では、2021年7月に観光文化施設「GREENable HIRUZEN」がオープンした(隈研吾氏設計の木造建築物の移築)。エネルギーから観光まで、森林資源を活用した地域創生の在るべき姿として紹介しておきたい。(写真:岡山県真庭市提供)
筆者は日本経済研究所チーフエコノミスト・地域未来研究センター長。JAPICの「林業復活・地域創生WG」主査を務める。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月21日号掲載)
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