林業を成長産業に JAPICの政策提言 酒井秀夫 東京大名誉教授
2022.03.07
産官学民の英知を集め政府への政策提言などに取り組む日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)の森林再生事業化委員会は、各産業界の会員からなる委員会活動を通じて得られた現場の切実な声を毎年「重点政策提言」として関係官庁に提言している。政府の概算要求や政策反映などにつなげられ、林業を成長産業化することを目指す。(写真はイメージ)
提言のキャッチフレーズは「伐って使って植える~循環型産業の実現に向けて~」である。循環型には持続可能や、持続可能な開発目標(SDGs)の意味も込められ、産業には林業の自立、山村の定住・振興が込められている。
提言は林業の成長産業化推進、国産材の需要拡大への取り組みを定番に、林業人材の育成・確保、木質バイオマス利用など毎年4~5本の柱を立て、この柱を中心にいくつかの具体策を提案している。
林業の成長産業化推進の柱として、次世代林業モデルに取り組んでいる。
熊本・五木で次世代林業実践
九州五木地域では、熊本南部森林管理署、森林整備センター、大手林業会社、熊本県五木村、五木村森林組合などが「森林整備推進協定」を結んで大規模共同施業団地を形成し、次世代林業の実践として共同出荷などによる施業の効率化、低コスト化に取り組んでおり、当委員会はオブザーバー参加している。
人工林が主伐を迎えるようになり、将来に渡って国産材を安定供給するためには、樹木の年齢を区分する齢級構成の偏りを是正し、確実な更新が喫緊の課題となっていることから、苗木供給などの体制整備を提言した。
主伐した木材を建築物や家具、紙などで長く使用することで、市中にも長期間炭素を貯蔵できることを試算した。京都議定書の約束遂行では、間伐により二酸化炭素の吸収に貢献してきたが、非住宅・中高層建築への木材利用促進政策とリンクして、主伐再造林も温室効果ガスの吸収源として位置づけることを強調した。
さらに2019年度からスタートすることになった森林経営管理制度を活用した集約化の進展のために、「所有者不明山林の施業が進むよう、手間の少ない共有者不明山林から実績を蓄積」「少なくとも制度が回るまで、国全体の問い合わせ窓口を強化。各地の優良事例を市町村へ共有」などの提言を行った。
官民一体でデータ活用
情報通信技術(ICT)を活用したサプライチェーン・マネジメントの構築を、2015年度から19年度まで提言。わが国林業界でもサプライチェーン・マネジメントの重要性が認識されるようになり、ICTを活用した川上から川中、川下間のサプライチェーン・マネジメントの構築が政策にも反映されるようになってきた。16年度から航空レーザー測量や航空写真などによる森林資源に関するデジタル情報のデータ整備とオープンデータ化、利活用を提言している。
ただ、需要側とデータ連携する仕組みがまだ構築されておらず、ユーザーである市町村、林業事業体などでの活用もなかなか進んでいない。このため、山元立木価格上昇と加工製造コスト低減に結びつき、計画性を伴った持続的林業の発展に資するように、サイバーフォレストの構築及びサプライチェーン全体でのデータ連携による林業DXの官民一体となった推進、利活用人材を育成する体制の構築などを20年度に提言した。
国産材利用の需要拡大も、これまでに、非住宅・中高層建築への木材利用促進、SDGsの観点における良質な民間プロジェクト創出への取り組みの推進、国産木材のブランド化戦略、枠組壁工法(ツーバイフォー)のJAS改訂、建築物などを教材とする新たな木育の推進などを提案してきた。
環境、エネルギー問題への対応も
このほか、国産材大径木の利用環境整備、木材(丸太)による地盤強化で国土強靱化と地中利用による炭素貯蔵による気候変動緩和を同時に実現、輸出向け販路拡大に向けた取り組みなど、いろいろな提案に取り組んでいる。
木質バイオマス利用については、木質バイオマス利用における地域熱利用、木質燃料の品質評価普及などを提言。特に木質バイオマス燃焼灰の肥料利用促進について、16年度から19年度まで提言を続けている。
コロナ禍を念頭に置いて、多様な生活スタイルの実現に向けた諸施策の推進として、木質バイオマスも活用した快適で魅力ある地方居住環境(病院、学校など)の整備と雇用の創出などを提言した。
さらに、短期滞在や子育て世帯の入居にも対応する木造中高層住居の整備、異業種の経験も有している半林半Xの生活スタイルの自立支援と地域のリーダー化、森林環境譲与税を活用した都市と山村のつながり強化などを提言。U・Iターン者、若手世代への林業教育の充実、高性能林業機械のICT化などによるさらなる省力化・利便性・安全性の向上と労働力の質の向上による労働対価のアップなども提案している。
当委員会の政策提言が林業の成長産業化に結びつき、社会のSDGsの推進に寄与できれば幸いです。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年2月21日号掲載)
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