規制緩和で利用しやすく ドローンによる農薬散布 中川純一 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員
2022.03.16
人手不足が深刻な農業現場で、ドローンの活用に期待が集まっている。政府も農薬の散布のほか、農産物の生育調査や運搬など、活用の幅を広げたい考えで、規制緩和を進めて普及を後押している。特にドローンによる農薬散布は大きな注目を浴びている。(写真はイメージ)
この背景には、生産者がドローンでの農薬散布を利用することで、減農薬につながり農薬代が削減できることや、無人ヘリコプターと比較してドローンが安価であり、操縦の難易度が低いことなどがメリットになっている。
センサーを利用したセンシング技術と組み合わせ、病虫害の発生状況をほ場内で精密に把握することを可能とする技術が開発されており、この技術を用いたピンポイント散布が開発され、導入が始まっている。このようなドローン技術の活用により、効率的な防除や収量・品質の向上が期待されている。
農林水産省によれば、ドローンを利用した農薬散布は2018年度が3万1020㌶、19年度が6万5128㌶、20年度が11万9500㌶と大幅に拡大している。政府は農業用ドローンの本格的な普及を目指し、22年度までにドローンによる農薬散布面積を100万㌶に拡大する目標を掲げている。
そのためドローンの農業利用時における規制緩和を行い、19年7月には国土交通省が「飛行マニュアル」を改定し、農薬散布時に操縦者以外に必要だった補助者の配置を、条件を満たせば不要にした。
従来は操縦者の他に補助者を配置する義務があり、普及の足かせとなっていた。しかし飛行する農地周辺に人の立ち入らない「緩衝区域」を設置することにより、「補助者」なしでの飛行を容認した。また、自動操縦による目視外飛行、夜間における飛行も可能となった。
現在、ドローンに適した高濃度・少量で散布できる農薬は稲や麦などの土地利用型作物を中心に登録されているものの、野菜や果樹などの品目については未だ使用可能な農薬数が限られているのが現状である。
このためドローンに適した高濃度・少量で散布する農薬であっても、単位面積当たりの農薬の投下量が従来と同等であれば、変更登録の申請で作物残留試験の追加の実施を不要とする見直しが行われた。
こうした取り組みにより、ドローンでの散布に適した農薬登録数が拡大し、21年3月末の781剤から22年3月1日時点で1045剤と、1000を突破した。農水省は23年3月末に846剤とする目標を掲げていたが、前倒しで達成した。
一方ドローンの普及に伴って、航空法に違反した飛行や事故が増えている。しかし所有者を特定できず、事故原因を究明したり改善を求めたりできない事例も出ており、規制強化のために航空法が改正された。
所有者の氏名や住所、機体の情報を国土交通相にオンラインで申請する登録制度が整えられ、22年6月の施行以降、100㌘以上のドローンの所有者は登録が義務化される。所有者は国から通知された識別番号である「リモートID」をシールなどで機体に表示し、飛行中は電波で番号を発信する。
多くの農業現場で課題となっている担い手不足や高齢化による労働力不足をカバーできるという点で、農業用ドローンはその活用が推進されている。
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