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コロナ禍で消費者向けに活路  変わる冷凍パン市場  泉尾尚紀 矢野経済研究所フードサイエンスユニット主任研究員

2022.01.13

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 かつてパン製造は、製パン工場か、街のパン工房の職人による「スクラッチ製法」が主流であった。スクラッチ製法はパン粉から生地を作って成型し、発酵させて焼き上げる全工程を工房で行うため、早朝からの重労働が当たり前で、一カ所での一貫生産が一般的であった。

 しかし1960年代の冷凍パン生地の登場は、重労働や一カ所一貫生産から解放され、個別販売店での簡便焼成を可能とした。またスクラッチ製法は手間が掛かりすぎるため、店頭のアイテム増が容易ではなかったが、冷凍パン生地がこの問題を解決し、売り場にバリエーションを持たせることを可能にした。

 2020年度の冷凍パン生地・冷凍パン市場は、矢野経済研究所推定で前年度比10.6%減の1630億円となった。これは、市場が業務用を中心としており、コロナ禍で飲食店、ホテル、ブライダル向けを中心に需要が急減したからである。(関連記事:冷凍パン市場2年ぶり拡大へ 矢野経済研究所予測

加工度上がり市場広がる


 冷凍パン生地の加工度の違いによるトレンドは、数年ごとに変化があり、2007~09年は生地を玉にした状態で冷凍させる「生地玉冷凍」のニーズが高く、10~12年は「成型後冷凍」にシフトした。14年前後は使用シーンごとに、生地玉と成型後の伸びが拮抗していた。

 冷凍パン生地・冷凍パンは、製造技術向上と商品バリエーションの拡大、そして16年以降の人手不足・人件費高騰を背景に、より加工度の高い冷凍パン(発酵した生地をオーブンで焼成した商品)の需要が高まった。加工度の高い冷凍パンは、新規チャネルの開拓にも貢献した。

 ホイロ設備(発酵機)を持たないホテルは、朝食用のパンとして冷凍パンの需要が拡大した。総合スーパーや食品スーパーは惣菜コーナーで調理パン用に半焼成冷凍を利用し、テーマパークやシネコンは、片手で食べられる「ワンハンドバゲット」用に焼成後冷凍を利用している。

 外食産業やコンビニ納入業者は「ユーロベーグル」「カナディアンベーグル」といったベーグル類で焼成後冷凍を利用し、具材で差別化している。カフェチェーンやベーカリーチェーンは、ドッグサンドに使う「ドッグパン」や、カツサンドに使う「食パン」にも冷凍パンを利用している。

 最終発酵を済ませたホイロ後冷凍は、店頭で焼成するのみでパンを提供できるため、半焼成冷凍や焼成後冷凍と同様に、工程を削減できるメリットもある。しかしホイロ後冷凍は温度管理が難しいことと、焼成に時間が掛かることから、半焼成冷凍や焼成後冷凍へ需要が移行した。

 冷凍パンがこうした新規チャネルへ進出できたのには、冷凍食品、冷凍食材の普及が大きく関わっている。輸入食材商社や卸業者は、加工食品はもとより畜肉類や魚介類の冷凍品を多く流通させている上、ホテル、レストランとの取引に強く、冷凍パンの普及に貢献している。

コロナ禍で需要に変化


 冷凍パン生地・冷凍パンのトレンドは、20年春の新型コロナウイルス感染拡大で潮目が大きく変わった。

 ベーカリーは営業時間制限と外出自粛による来店客数減少による売り上げ減に対して、収益性を高める努力をし、原価率が高く加工度が高い成型後冷凍から、原価率が低く加工度が低い生地玉やシート生地にシフトした。

 さらに巣ごもり需要を背景に、加工度が低い食事パン、高級食パン用の生地玉は需要旺盛となった。スーパーの惣菜売場のカレーパンや、マリトッツオ用のブリオッシュなどはブームで一時好調となった。

 コロナの直接的な影響は、旅行客が激減したホテルや感染防止で自粛されたブライダルで、焼成後冷凍需要が消滅したことである。

 焼成後冷凍は一般家庭向けの「コンシューマーパック」にして市場を開拓することで、業務用での需要落ち込みを埋める試みが見られる。最近の商品は焼成後冷凍でパン1個の大きさも小さく、パッケージの大きさも家庭用冷蔵庫の冷凍スペースを考慮した量目となっている。ホームベーカリーほど面倒でなく、焼きたてパンを望む顧客は育っており、市場拡大の余地は大きい。

消費者向けが課題


 これまで冷凍パン生地・冷凍パンメーカーは、業務用に注力してきたが、肝心なのは最終製品が消費者に受け入れられるかどうかである。業務用のマーケティングも重要であるが、最終消費者へのマーケティング手法がより重要度を増しており、ここに冷凍パン生地市場の活路がある。

 人口増加が望めない日本では、横ばいないし微減傾向にあるパン市場全体の中で市場を拡大させるには、冷凍パン生地・冷凍パンの訴求点を見出し、存在感を際立たせることである。

 今後は食味開発・技術革新、新規チャネルや売り場の開拓、メニュー開発、喫食シーンの開拓、冷凍生地焼き上げによる商品の付加価値化など、業務用、消費財の両面から、商品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・販売促進(Promotion)の4Pを重視した不断の対応が、冷凍パン生地・冷凍パン市場を拡大させていく。

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