維持難しい手押しポンプ 村落部、水確保で試行錯誤 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第15回
2021.09.03
前回までは新型コロナへの感染に焦点を絞り、アフリカの農村における「病=新型コロナウイルス感染症」について考えてきた(前回)。今回からの3回の連載では、人びとの暮らしの身近にある「水」に焦点を当てる。今回はアフリカの農村において、人びとの飲料や生活だけでなく、農耕にも欠かせない水の事情を紹介する。
(写真:モザンビークの村で洗濯する子ども=2019年11月19日、近藤加奈子撮影、以下同)
水確保は世界の目標
1995年、世界銀行副総裁であったイスマイル・セラゲルディン氏は「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐって戦われるだろう」と発言した。
その言葉通り、21世紀は「水の世紀」と呼ばれ、世界各地で水をめぐるさまざまな問題が生じている。他方、日本に住む私たちは、日常的に清潔で十分な量の水を享受することが当たり前となっているため、世界で生じている水問題はどこか他人事のように感じてしまいがちである。
しかし、この問題は決して私たちの生活と無関係ではない。下のグラフの通り、1960年代以降、世界の水の使用量は2倍以上に増えている。
(グラフ:世界の人口増加と水使用量=国連世界人口予測、国連食糧農業機関、世界気象機関のデータから作成)
人口増加による水需要の拡大や水質の汚染は、世界的な水不足に拍車をかけ、農業生産の落ち込みや健康被害をもたらす。その結果、世界各地で食糧不足や貧困の深刻化、病気の蔓延などを招く恐れがある。水をめぐる問題は国際社会全体で取り組むべき課題であり、持続可能な開発目標(SDGs)では、全ての人に安全な水を安定的に供給することが目標として掲げられている。
現在、世界で約7.8億人が国際機関の基準で安全とは言えない水を利用していたり、水くみに何時間も要したりしており、生活に必要な安全な水を容易に得られない状況にある。
そのうちの半数以上が、アフリカのサハラ以南に住む人びとである。特に、水道が普及しつつある都市部と比較し、村落部において容易に安全な水を入手できる人は限られている。
そのため、国際社会は長年、アフリカ(サハラ以南、以下同)の村落部において、手押しポンプや高架水槽などの給水施設を数多く建設してきた。特に日本は、国際協力における水・衛生分野の最大の援助主体であり、数々の給水事業に貢献してきた。
(国際協力機構の給水プロジェクトで建設された手押しポンプ=モザンビーク北部の村落部、2017年6月19日)
しかし、現地に給水施設を建設するだけでは、アフリカ村落部の水問題を解決できるとは言い難い。手押しポンプを例にとると、これまでアフリカには約60万本以上の手押しポンプが導入されてきたものの、導入後3年以内には維持管理の問題に直面するとされ、2019年の時点で建設されたポンプの約4本に1本が稼働していない状況である。建設された給水施設は地域の人びとが主体となって維持管理していく必要があり、その持続可能性が大きな課題となっている。
(故障して放置された手押しポンプ。モザンビークのこの村では4本の手押しポンプのうち、2本が放置されている=2019年10月16日)
維持管理の課題多く
住民が手押しポンプを維持管理していく上でさまざまな問題が挙げられるが、ここでは主な3つを取り上げる。1つ目は利用料の徴収・管理の難しさである。
手押しポンプを維持管理するためには、定期的なメンテナンスやパーツの交換が必要となるため、そのための資金を集めなければならない。しかし、それまで近くの川や池の水を自由に利用していた人びとは、支払いを嫌い、手押しポンプをただで利用しようとしたり、支払いを渋ったりする。
チェックの仕組みが整っていないため、管理人が集めた金を使い込んだり、持ち逃げしたりすることもある。その結果、利用者間で不公平感や不満が生じ、利用料の徴収はますます困難となる。
2つ目は、手押しポンプの修理に必要となる部品の供給網が整っていないことである。都市部では手押しポンプの部品を手に入れることは容易である。その一方で、乗り合いバスやバイクタクシーを乗り継いで数時間かかる村落部で手押しポンプが故障した場合、すぐに部品を買いには行くことはできない。部品を入手するまでにかかる時間や費用の問題から手押しポンプは放置され、人びとは修理を待つ間に池や川などの水源を利用する、従来の生活に戻ってしまう。
3つ目は、メンテナンスなどの管理技術が継承されず、普及しないことである。研修を受けて技術を習得したとしても、若者や壮齢の男性は都市部に出稼ぎに行くことも多い。技術を習得した人が村からいなくなると、メンテナンスや修理をできる人がいなくなってしまい、結果的にすぐに故障し、そのまま放置されてしまう。
続く試行錯誤
現在、住民による維持管理をサポートするために、地方行政や援助機関が主体となって部品の供給網を整備したり、定期的なモニタリング・技術研修を実施したりするなどさまざまな試行錯誤が行われている。
しかし、限られた財源の中で政府や援助機関ができることは限られており、提供されるサービスが全ての村に幅広く行き渡っているわけではない。その中で、住民たちは自分たちの自助努力と地域にある資源の利用により、生活に必要な水を確保しようと試みている。
次回以降はアフリカのモザンビークの農村を対象に、住民がどのような工夫や取り組みをしているのかをみていく。
近藤 加奈子(こんどう・かなこ)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究
連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。
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