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化学肥料の価格2.8倍に  トウモロコシ生産に打撃  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第14回

2021.08.17

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化学肥料の価格2.8倍に  トウモロコシ生産に打撃  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第14回の写真

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、アフリカの農村に暮らす人びとの生活のあり方や生業・家計に、大きな影響を及ぼしている。前回は、ザンビア農村部に暮らす人びとのマスクの着用や挨拶など、日常生活に見られる変化について明らかにした。

 多くのアフリカの国々で、日常生活の変化に加えて、農業や消費への影響が報告されている。そこで今回は、前回に続きオンライン・インタビューを実施したザンビアに着目して、農業や家計に及んでいる影響について見ていこう。

(上の写真:ザンビア東部州の村落で行われている、棒で叩く大豆の脱穀作業=2021年8月10日、農業普及員が撮影、以下同)

 調査に協力してくれたザンビア東部州の農業普及員によると、感染拡大によって農家の収入は概して減少している。農業において特に影響を受けているのが、主食作物としても換金作物としても重要な農産物であるトウモロコシの生産である。

 まず感染拡大初期に見られたのは、農作業への影響だった。東部州の農村では、トウモロコシの収穫の際に日雇い労働者が雇われることが多い。しかし昨年の収穫時期は、コロナウイルスの感染拡大が確認されたタイミングと重なった。混乱の中で日雇い労働者が感染を恐れて外出を避けたために、収穫を担う人手が不足し、収穫の遅れを招いた。

 現在も農家に深刻な影響を及ぼしているのが、化学肥料の高騰である。トウモロコシ栽培に不可欠な化学肥料は、輸入に依存している。しかし感染拡大への措置に伴う供給量の減少により、価格が約2.8倍まで高騰した。ただでさえ都市部に暮らす家族や親戚からの送金が減少し、現金収入が減った農家は「化学肥料が高くて購入できない」と頭を悩ませている。

 ザンビアの食料備蓄省は、近年低く押さえ込んでいたトウモロコシの買い取り価格を、50㌔㌘当たり120ザンビア・クアチャ(約588円)から150ザンビア・クアチャに引き上げることで、農家の厳しい状況に対応している。(ザンビアの通貨ザンビア・クアチャの円換算レートは2166日現在)。

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(大豆の脱穀をする女性と休憩中の人びと)


 一方で影響の少ない作物が、地場品種の大豆である。大豆はトウモロコシとは反対に、輸出業者や社会的企業による買い取り価格が近年上昇しており、さらに生産に化学肥料を必要としない。そのためトウモロコシではなく大豆の栽培を選択する農家が増加している。感染拡大の影響が長引けば、この傾向が加速することが予想される。

 農村部の人びとの家計への影響はどうだろうか。世界銀行の報告によると、20年の1年間で、世界の食料価格は約20%上昇した。これはザンビアの農村部でも例外ではない。

 日常的に使われるトマトやタマネギ、砂糖などの食材は、首都ルサカなど遠方部から輸送されている。これらについても化学肥料と同様、感染拡大に伴う輸送量・供給量の減少により、市場で販売される幅広い品目で価格が高騰している。

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(シマ(上段)はペースト状でやや弾力がある。下段中央がトマトソース)


 ザンビアの主食で、トウモロコシもしくはキャッサバ(イモノキ)の粉を湯で練って作る「シマ」は、よくトマトソースを付け合わせにして食される。しかしトマトとタマネギの高騰により、トマトソースを諦めて、ガーリック風味の味付けなどで対応するという話も聞かれる。

 しかしトマトソースの付け合わせは、人びとに好まれている。農業普及員はこの状況を打開するために、肥料を必要としないトマトの栽培トレーニングを開始したと教えてくれた。

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(栽培トレーニング中のトマト)


 彼は「このような現状は『すべてが高価な新しい文化』が来たのだと捉え、何とか順応していくしかない」と話す。コロナ禍は世界中に大きな影響を与えている。しかし、人びとはただ立ちすくんでいるわけではない。ここで紹介した例は、アフリカの農村には農村なりに、コロナ禍の影響を何とか乗り越えていこうとする努力があることを示している。

 今回まで、全3回にわたり、アフリカにおける新型コロナウイルス感染症の拡大と、その影響について解説した。全体として他地域と比べて感染者の規模が小さいように思えても、アフリカの人びとの生活や生業には、明らかな変化が現れている。さまざまな順応と努力が見られるものの、ワクチンの普及も十分ではない。今後も影響が長引くことが予想されるため、決して楽観できる状況ではない。しかしアフリカの人びとはまた、努力と順応を重ねていくことだろう。

 次回からは、人びとの生活において不可欠な「水」に着目する。アフリカの農村において、水がどのように認識され、使用されているのか、3回にわたって明らかにしていく。


 田代 啓(たしろ・けい)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 日下部 美佳(くさかべ・みか)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究


 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。

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