特産品販売で熱海支援も 持続可能な金融機関へ 陣内純英 西海みずき信用組合理事長
2021.08.23
手前みそだが、西海みずき信用組合(長崎県佐世保市)の地域振興室は、業界で少し注目されており、取材を受けることも増えてきた。
同室のメンバー3人は皆、次のように銀行員らしくない経歴を持つ。①有名映像制作会社出身で、地域おこし協力隊の経験もある②プロモデラー(プロ模型制作者)でかつては小さな文芸誌の発行人だった③政府系金融機関の研究所に所属し街づくりコンサルで全国を行脚する中、佐世保にほれこんで移住してきた。
最初の2人は金融経験皆無だ。「新卒採用したプロパー職員で固めている金融機関が多い中、3人(=職員の5%)もの畑違いの職員を抱えているのはすごい」と取材に来たライターに指摘された。
彼らが手がけたプロジェクト(「さきめし」や「まちの学食」など)は、このコラムで一部紹介したが、先日も、熱海の土石流被害の発生を受け急きょイベントを企画・開催した。
3週間後の7月24日、熱海の特産品を佐世保のアーケード商店街で販売したのだ。(写真:商品をアピールする西海みずき信用組合の職員、筆者撮影)
熱海商工会議所に提案したところ快諾をいただき、熱海A-PLUS認定商品(厳しい審査により「これぞ、熱海を代表するにふさわしい」と認定された商品群)の中から15品目を送ってもらった。
一方で佐世保の商店街からも協力を取り付けた。「被災者支援だけではなく、イベントで佐世保の街もにぎやかになる」と、当日は、役員自ら販売の陣頭に立つほど積極的に対応してくれた。
おかげで200人以上の方に購入いただき、仕入れた商品はほぼ完売した。暖かい言葉や寄付もいただいた。売り上げの7割が商品の代金、3割は被災者支援の寄付となった。
地域振興室の3人は、こうしたイベントの段取り、地元FMラジオ出演やプレスリリース、SNS発信など、稟議(りんぎ)なしにどんどん進める。銀行の営業日は関係なくマイペースで、力仕事、ペンキ塗りなど必要な作業は何でもする。被災した方々や地域のためにとの思いが強く、自ら(の組織)が被るかもしれないリスクはあまり気にしない。
ただ発想や動きが普通の銀行員と異なるので、これまでは金融部門の職員とはなかなかペースが合わず、相乗効果が生み出せなかった。
しかし今回は、彼らの動きに積極的に同調する職員が増えた。イベント当日は数人の職員が荷物運び、販売、会計など当たり前のように手伝っていた。また販売会とは別に営業店を通じて熱海A-PLUS商品の購入あっせんを行ったが、ある支店では、多くの企業に呼びかけ、上述のイベントの売り上げを凌駕(りょうが)する注文を受けた。
こうした地域振興室と既存の金融部門の融合の先に持続可能なビジネスモデルが見えてくることを期待したい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2021年8月9日号掲載)
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