恩返しの連鎖 陣内純英 西海みずき信用組合理事長
2020.10.19
新型コロナウイルス禍でアルバイトが減ったり、仕送りが途絶えたりで、日々の食事も満足にとれない学生がいる。そんな記事が地元紙の長崎新聞に載った。
当信組でも、何か支援できないかと思って始めたのが「まちの学食」だ。(上の図:「まちの学食」のホームページ画像=デザイン南新太郎)
コンセプトと名称は、「さきめし」(飲食店に食事代を先払いして支援する取り組み)の発案者でもある当組合のクリエーターが考え、グルメ情報サイトを運営する会社、FMラジオ局、地元のデザイナーさんなど多くの方々に協力してもらい、6月に開始することができた。
学生さんは、市内九つの飲食店で提供される食事を、アプリを使った簡単な手続きで、無料で食べることができる。
利用者はやはりリピーターが多い。その1人、大学1年生のA君は、母子家庭。母が入学金までは貯めておいてくれたが、学費は自分で稼ぐ約束だった。そこでさっそく飲食店でアルバイトを始めたが、コロナの影響でシフトが入らず、4〜5月は2000円の収入しか入らなかった。無料の食事は本当に助かると話してくれた。リピーターの中にはアジアからの留学生も多い。
まちの学食を始めたときは、地域のテレビや新聞にたびたび取り上げられた。市の広報誌でもトップに掲載してもらった。おかげさまで個人の方から10万円振り込んでいただくなど、当初、相応の寄付が集まった。
しかし、すぐ尻すぼみとなった。一方、提供される食数は、次第に増えていった。コロナ収束まで長期戦を考えたとき、なんとか寄付を増やさなければならなかった。
そんなときたまたま地元の若手経営者との雑談で話題にしたところ「コロナ禍にあえぐ社会のために何かしたいと思っていました。ぜひ寄付させてほしい」というありがたい言葉をいただいた。
ご賛同いただける方がほかにも居られるかもしれないと、だめもとで何人かの社長さんにお話ししたところ、喜んで寄付してくださる。佐世保はなんて優しい街なのだろう。おかげで、食事の提供を続けることができ、9月15日には累計1000食を突破した。
もう一つうれしいことに、最近、とある学生さんのグループから、まちの学食の運営を手伝いたいという声が上がった。手始めに同級生にアンケートしてくれた。その結果、利用した学生さんたちには、企業や社会に何らかのかたちで恩返ししたいという気持ちが強いことが分かった。
今後、若者のアイデアやマンパワーを求める企業や団体などとのマッチングも担ってくれる方向で話が進んでいる。
恩返しの連鎖が乗数効果を発揮し、まちの学食への寄付の何倍もの善意が、佐世保の街からあふれていく。コロナ禍の中で人々が優しくなったように感じるのは私だけだろうか?!
(Kyodo Weekly・政経週報 2020年10月5日号掲載)
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