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暮らしに寄り添うデザイン  陣内純英 西海みずき信用組合理事長

2020.11.30

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暮らしに寄り添うデザイン  陣内純英 西海みずき信用組合理事長の写真

 コロナ禍の飲食店を支援するためスマホアプリを使って先払いする「さきめし」。使ったことはなくても、聞いたことがある人は多いだろう。このアプリを開発したのは福岡のIT企業Gigi株式会社だが、同社に「さきめし」のアイデアを提供したのは、実は、当組合のクリエーターだ。

 さきめし/ごちめし公式フェイスブック3月5日の【"先めし"はじめます】という投稿に「西海みずき信用組合さんから提案されて目からウロコでした」と書いてもらっている。この「さきめし」がグッドデザインベスト100とベストフォーカス賞を受賞した。

 さて、グッドデザインといえば、前任地の新潟・燕三条は、石を投げれば社長に当たるというぐらいの中小企業の町だが、石を投げればグッドデザインに当たる町でもある。2020年は、20点、うちベスト100が3点。昨年は、21点、ベスト100が5点だ。1966年以降700点近く受賞している。

 中でも作業工具の兼古製作所(ANEX)は、37年連続で受賞。「感動を生むための道具作り」をコンセプトに、優れた機能性と品質に裏付けられた斬新なデザインで本当の使いやすさを日々追及している。こうした姿勢が零細な工場も含め産地全体に伝播し、燕三条のものづくりの質を高めている。

 長崎県波佐見町にも、グッドデザインの常連がいる。平茶碗で有名な森正洋氏が活躍した白山陶器だ。1961年の初受賞以来137点受賞し、うち34点がロングライフデザインに選ばれている。今年も3点受賞しており、造詣に対する闘争心、新しいものを生み出す勇気は脈々と受け継がれている。

 波佐見は、同社をリーダーに生活にフィットし感性に響くデザインを追求し、産地全体で切磋琢磨している。この点、燕三条に引けをとらない。だからこそ若い女性が「可愛い!」と思わず声を上げる器を次々と生み出すことができるのだ。

 最近、その波佐見焼の真価を実感させられるインスタグラムの投稿に出合った。それは、新潟に住む若い女性が「家族がいっぱい増えた日の話」というタイトルで、姉が結婚し家族が増えた日の家族だんらんの様子や感想をつづっている。(写真:mio3015さんのインスタグラムより。器は西海陶器<波佐見>のIndigo Japan)

 ただ、使われた画像は家族ではなく、5個の波佐見焼の器を撮ったもの。つまり、彼女にとって家族を象徴するものが波佐見焼だったのだ。料亭向けを中心とする有田焼と違って、波佐見焼は家庭用食器を長年作り続けてきた。若い女性が気軽に購入し、毎日普通に使い、暮らしとか人生に寄り添う器。波佐見焼がそんな器であることを、ごく普通の女の子が無意識に表現した。

 それは、偉い審査員の先生方に選ばれる以上に、波佐見焼の作り手にとっては誇らしいことなのではないだろうか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2020年11月16日号掲載)

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