第3波でマスク着用は増加 農村部もコロナ「日常化」 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第13回
2021.07.29
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、アフリカの農村に暮らす人びとの日常生活のあり方にも大きな変化を及ぼしている。前回はアフリカの感染状況と社会的・経済的な影響を概観した。今回は私たちがオンライン・インタビューを実施したザンビアに注目して、農村部の日常生活に及んでいる影響を見ていこう。
(写真:ザンビア東部州の村落での収穫祭の様子。第3波前でマスク着用の人は少ない=2021年4月19日、農業普及員が撮影、以下同)
ザンビアでは、2020年3月18日に国内で初めて感染者が確認されてすぐ、一部の国境や空港の閉鎖、地区内の移動制限など、厳しい措置がとられた。徐々に規制が緩和されるも、7月中旬から8月下旬にかけての感染の第1波、2021年1月中旬から2月中旬にかけての第2波への対応として、制限は繰り返し強化された。政府は公共の場でのマスクの着用や、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取ることの徹底も強く推奨している。
2021年6月中旬から7月上旬にかけての第3波が最も感染拡大の規模が大きく、ピークの6月24日には1日の感染者数は3594人に上った。そのため現在も、大規模な集会等の禁止や、公共の場におけるマスク着用の義務化、部分的なロックダウン(都市封鎖)が実施されている。7月24日時点では、1日の感染者数は912人にまで落ち着いてきている。
(ザンビアの1日の感染者数の推移)
東部州の農業普及員によると、農村部では地域の首長がコロナ対策を主導することはなく、農作業中にマスクを着けている様子も見られない。第1波の際はマスクを着用していると「体調が悪いのか」と冗談交じりに声をかけられることもあったようだ。
9月ごろに第2波が落ち着くと、人びとは「コロナはすでに収束した」と捉えるようになり、マスクを着用する人は村だけでなく近隣の町でも減少した。
しかし今年6月以降の第3波では、大半の人が真剣に捉えてマスクを着用する傾向にある。20人くらいの農民グループの集会では、数人がマスクを着けているという。話すときにはマスクがない人も、女性は布や手を、男性はシャツの襟元を使って口元を覆う様子も見られる。
マスクの着用は人びとの日常に浸透しつつあり、会話時に感染リスクが高まるという意識も共有されている。この1年間の経験を通して、対処方法を学んできたのだ。
(布製マスクを縫製する仕立て屋=2021年4月26日)
マスクは不織布製、布製ともに、近隣の町で入手可能である。布製はザンビアの伝統的な生地であるチテンゲを購入し、仕立て屋に製作を頼むことで、不織布製よりも経済的に利用することができる。
(チテンゲで作ったマスク=2021年4月26日)
挨拶の仕方についても、従来の握手は少なくなり、村落でも距離を取っての口頭の挨拶や、肘と肘を合わせるやり方が主流になりつつあるという。
ザンビア東部州の人びとにとって、新型コロナウイルス感染症についての主な情報源は、ラジオや会員制交流サイト(SNS)である。そうした情報入手によって、対策への認識や正しい理解が促される一方で、「Selected Diseases(一部の人のみがかかる病気)」とする考え方や、ワクチンに関するネガティブな情報も流布している。つまり日本や他の国々と同様に、ザンビアの人びとも不確定な情報に振り回されている状況にある。
このようにザンビアでも日本で言う「ニューノーマル」のような、日常における明らかな変化が生じている。これと同じくらい重要になってくるのが、彼らの主要な生業である農業への影響である。
ザンビアの農村では、農業など自らの生業に加えて、都市部に暮らす家族や親戚からの送金を頼りにする人が多い。一方で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響は都市部でより大きいために、農村から都市の家族・親戚へ食料を送るという支援の方向の転換も見られる。
次回は、農村に暮らす人びとの農業などの生業が受けている具体的な影響について、ザンビアの事例から明らかにしていく。
田代 啓(たしろ・けい)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
日下部 美佳(くさかべ・みか)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻
高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究
連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。
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