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出稼ぎ激減で貧困加速  繰り返すコロナ感染の波  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第12回

2021.07.09

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出稼ぎ激減で貧困加速  繰り返すコロナ感染の波  連載「アフリカにおける農の現在(いま)」第12回の写真

 この連載は前回の第11回まで、主に耕作に焦点を当ててきた。今回からいわばシーズン2に入り、アフリカで農をなりわいとする村の人びとの暮らしを取り巻く、病や水、燃料、森に着目していく。

 12回目となる今回から3回にわたり、世界中を困難に陥れている病、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とその影響を取り上げる。

(写真上:ザンビア東部州の村落での収穫祭の様子。マスクを着用する人はまばら=2021年4月19日、現地の農業普及員が撮影。写真下も)

人口比では感染者少ない?


 2021年7月4日時点で、全世界の累計感染者数は約1.8億人に上り、400万人が命を落としている。アフリカの感染者数は約560万人(うち約15万人が死亡)で、世界に占める感染者数の割合は約3.1%である。

 アフリカの人口は世界の約17%あり、感染者の比率は非常に低いと言えるだろう。ただしアフリカの感染者数の統計は、不正確であると評価されており、こうした数値は推計値と考えた方がいいだろう。

 図1(下)のアフリカの新規感染者数の推移を見ると、第1波が2020年7月ごろ、第2波が今年1月ごろ、そして現在第3波が来ている傾向が見てとれる。

 いずれの波もアフリカ最大の感染国である南アフリカの動向に大きく左右されている。現在南アフリカの累計感染者数は約205万人、続くエチオピアが約28万人、ケニアが約19万人と、南アフリカが突出している(日本は約81万人)。

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図1:アフリカと南アフリカの感染者数(2020年2月13日~2021年7月4日)

 各国を見ると(下の図2)、それぞれ感染拡大の時期は異なるものの、おおよそ2~3カ月でいったん落ち着き、その後新規感染者が拡大するという状況を繰り返している。現在も南アフリカ以外に、ザンビアやウガンダ、ナミビアで感染の急拡大が起こっている。少なくともワクチンが普及するまでは、この周期が各国で繰り返されていく可能性が大きい。

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図2:感染者数の多い国の感染者数 ※南アフリカ除く


 しかし概して、感染拡大し始めた当初の世界の予想に反して、これまでのアフリカの感染状況は欧米先進国などに比べ深刻ではないといえる。一方で楽観できないのが、アフリカの社会経済への影響である。

繰り返されるロックダウン


 サハラ以南のアフリカに焦点を当てて、コロナ禍の社会的・経済的影響を見ていこう。国際通貨基金(IMF)によると、2020年のアフリカの国内総生産(GDP)の成長率はマイナス1.9%と推計され、25年ぶりに経済が縮小した。ザンビアなどのように、対外債務の負担にたえられず、不履行に陥る国も出てきた。

 アフリカ経済の悪化をもたらした最大の原因は、国境封鎖と国内ロックダウンである。アフリカの全49カ国のうち、46カ国で、新型コロナウイルスの感染を抑えるため、全国もしくは一部地域での外出禁止令などの厳しい措置がとられた。

 特に感染拡大の深刻な南アフリカでは、2020年3月15日から航空機の国際線が停止になり、100人以上の集会が禁止された。同月18日からは学校が閉鎖され、27日には国内移動の制限、飲食店や娯楽施設の閉鎖、すべての集会の禁止、全国規模の夜間外出禁止令などの厳しい措置が打ち出された。

 他の国でも感染が最初に確認された早い時期から、同様の厳しい措置がとられた。徐々に緩和されてきたものの、感染者数が再び増加傾向を示すたびに規制は強められている。最近の例では、2021年6月にウガンダで学校閉鎖や地区間移動などのロックダウンが施行されている。

 輸出入やサプライチェーンの突然の機能の低下により、第一次産業・第二次産業は大きな打撃を受けている。日本や他の国々同様、都市では失業や企業の倒産が相次いでいることも報告されている。消費者には供給不足による物価の上昇が、重くのしかかっている。

 さらにアフリカの社会において、人びとにとって深刻な問題なのが、出稼ぎの機会の激減である。ロックダウンなどの移動制限や欧米などでの入国制限により季節的、もしくは長期的な出稼ぎからの収入を当てにできないことで、出稼ぎ労働者とその家族の貧困や食料不安が加速している。

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都会と農村で影響度に差


 移動制限などによる経済への打撃の影響を大きく受けるのは、人びとが密になりやすい都市で暮らす人びと、特に路上などで商売を行う経済変動に対して脆弱な子ども、障害者、女性や、インフォーマルセクターに属する人だとされている。インフォーマルセクターとは、法人登記されていない企業・集団のことである。

 一方人口密度の低い農村部では、感染状況は都会に比べて深刻ではない。日本よりもはるかに、都市と農村とで「コロナ観」に大きな差があるとも見られてきた。

 しかし社会的・経済的な影響までも合わせて考えると、そのように単純には言い切れないのである。わたしたちの調査では、アフリカの農村でも挨拶の仕方、マスクの着用から、農産物のサプライチェーンや家族の出稼ぎ状況などに、広く深い影響を及ぼしつつある。

 次回と次々回で、農村の人びとに及んでいる具体的な影響について明らかにしていくこととしたい。


 田代 啓(たしろ・けい)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 日下部 美佳(くさかべ・みか)京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻

 高橋 基樹(たかはし・もとき)京都大学教授、神戸大学名誉教授。京都大学アフリカ地域研究資料センター長。元国際開発学会会長。専門はアフリカ経済開発研究

 連載「アフリカにおける農の現在(いま)」では、アフリカの農業と食の現状を、京都大学の高橋基樹教授が若い研究者とともに報告します。

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