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甘くなかった豪州の検疫  「岐阜いちご」初荷は苦戦  西原哲也 NNAオーストラリア社長

2021.04.20

甘くなかった豪州の検疫  「岐阜いちご」初荷は苦戦  西原哲也 NNAオーストラリア社長の写真

(写真はイメージ)

 日本からオーストラリアへの輸出産品で、これほど小さな一歩で、これほど注目された商品はない。そう言ってもあながち言い過ぎではないだろう。日本産のイチゴがこのほど、初めてオーストラリアに出荷されたことだ。

 日本の農家が何十年も品種改良を重ね、世界に例を見ないほど甘く仕立て上げた日本産イチゴへの注目度は内外で非常に高い。まだビジネスベースにはなっていないものの、貿易関係者らは今後の期待に胸を膨らませている。

 だが─。フタを開けてみると、想像しがたい「障壁」が待っていた。

 日本とオーストラリアは、2015年に日豪経済連携協定(EPA)を締結している。この結果、多くの青果の関税撤廃・引き下げが実施され、オーストラリアに利益をもたらした。豪外務貿易省はその2年後にリリースを出し、多くの日本向け農産物輸出がその2年間で最大30%伸びたと強調した。

 筆者がそのうち、注目したのは生鮮ブドウだ。それまでわずか60万豪㌦(約5100万円)に過ぎなかった対日輸出額は、その2年間で3000万豪㌦と大幅に増えている。日本の財務省貿易統計によると、さらにその2年後の19年には、約44億円にまで増えている。実に、86倍に激増しているのだ。

 ちなみに日本の農水省は、EPA締結直前に豪州産ブドウの関税撤廃による国内農家への影響を予測し「国産ブドウは巨峰やシャインマスカットなど味や外観が極めて優れ、産地ごとにブランドが確立されており、外国産と比べて価格が3倍以上なのに、国内需要の9割を占める」として「影響は限定的」としていた。

 しかし、だ。外国産ブドウが86倍も入っているというのに、国産ブドウに影響がないということはあり得るのだろうか。日本人のブドウ消費が激増しない限り、国産がシェアを奪われるのは明らかだろう。

「ジャムやソースにするしかない」


 一方、日本でも農産品輸出は菅首相の肝入り政策の一つだ。日本は、農産品輸出額を2025年に2兆円、30年までに5兆円と、これまでの5倍超に引き上げる目標を掲げる。中でも伸びしろがあると期待されているのが青果である。

 イチゴも主力商品の一つだ。日本ではイチゴの大半は国内で消費されるが、そのうち約200㌧以上が香港を中心としたアジアに輸出されており、その量と人気は年々高まっている。

 オーストラリアとも昨年、植物検疫条件で合意し、日本産イチゴの輸出が可能になっている。最初に手を挙げたのは岐阜県だった経緯から、今年2月になってようやく、オーストラリアに初めて岐阜県産イチゴが輸出された。

 今回イチゴを出荷したのは、岐阜県の本丸いちご本圃とJA全農岐阜。将来の輸出拡大の期待を込めて、岐阜県は輸出出発式まで行った。

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(写真:出発式で披露されたイチゴ=岐阜市の県JA会館前、2月25日、岐阜県提供)

 だが今回、貿易関係者に話を聞き、こちらは我が耳を疑った。

 オーストラリアへの出荷は成田空港からメルボルンまでの空輸で、約2日で小売業者に届く手はずになっている。今回の出荷は、約15個入りの袋詰めパックをそれぞれ1回目(15㌔)、2回目(7㌔)、3回目(8㌔)と、3回空輸した。痛みの足が早いイチゴは、温かい気温が致命的になる。海外への輸出であれば、とりわけ丁寧で迅速な輸送が鍵になる。

 だが─。

 メルボルンに届いたイチゴを見て、輸入担当者は絶句した。1回目が4分の1、2回目が3分の1、3回目に至っては半分の量のイチゴが抜き取られたり、切られたりしていたからである。空港検疫所で抽出「検査」が行われたのは明らかだが、これだけの雑なやり方と検査の量は納得がいかないものだった。

 またオーストラリア側の検疫官が、忙しいなどといった理由でイチゴが長時間留め置かれる場合もあり、収穫後2日で届くはずが、1週間かかったケースもあり、そのためひどく傷んでしまった箱もあったという。

 関係者らは「1週間たっていたら使い物にならない。こっちは真剣にやっている。いじめられているのかとさえ思った」と憤る。日本産イチゴをメニューに加えることになっていたレストランのシェフなども「これではせっかくの日本産イチゴは、ジャムやソースにするしかない」と不満を示したという。

オーストラリア特有の非関税障壁


 ある別の輸入関係者は、オーストラリアの青果業者から言われた言葉を思い出す。「日本から輸入するならイチゴだけは止めた方がいいよ。オーストラリアのイチゴは、クイーンズランド州産の収穫期が終わったらニューサウスウェールズ州、その次はビクトリア州と、1年中通して、さまざまな州から集まる仕組み。勝ち目がないんだよ」

 だがそれでも、日本の農家や県関係者の熱い思いと、日本産イチゴの高い品質は受け入れられるはず─と、日本側はあえて挑み続ける。

 こうした、オーストラリア特有と言える「非関税障壁」に、日本側が何も手を打てないのだとすると、今夏の日本産イチゴは本当にオーストラリアに出回るのか。日本の関係者は、心配顔で見守っている。

 西原 哲也(にしはら・てつや) 早稲田大学社会科学部卒業後、時事通信社入社。外国経済部記者を経て、香港大学大学院アジア研究修士 課程(MAAS)修了。NNA香港版編集長、中国総合版編集長などを経てNNAオーストラリア社長

(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 4月9日号から)


【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。

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