豪州一番乗りは「岐阜いちご」 知事らの取り組み実る NNAオーストラリア
2021.02.26
昨年8月に日本とオーストラリアが検疫条件に合意し、日本産イチゴのオーストラリア向け輸出が可能になったことを受けて、岐阜県がいち早く動き出した。同県のイチゴ生産者「本丸いちご本圃」とJA全農岐阜は県の支援を得て、オーストラリアが定める輸出の諸条件を解決し、25日にオーストラリアに向けて初出荷を行った。今回の出荷が、日本で最初のイチゴのオーストラリア向け輸出となる。
(写真:輸出出発式=岐阜市の県JA会館前、25日、岐阜県提供)
岐阜県は意外にもイチゴの大規模生産県というわけではない。2018年農林水産省作物統計調査によると、収穫量は2470㌧で、イチゴを生産する日本の24道県のうちでも下位(16位)に位置し、全国1位の収穫量を誇る栃木県(2万4900㌧)の10分の1にとどまる。
しかし、日本産いちごのオーストラリアへの輸出解禁直後から着実な取り組みを進め、今年度中にオーストラリアの検疫条件をクリアし、輸出にこぎ着けたのは岐阜県だけとみられる。
(グラフ:NNAオーストラリア作成)
岐阜県農産物流通課の長谷川裕紀技術課長補佐兼係長は「オーストラリアとは、以前から強いパートナーシップがあった」と語る。これまでにオーストラリアを主要ターゲット国と設定していた岐阜県は、19年9月に古田肇知事率いる代表団がシドニーなどを訪れ、プロモーションを実施。知事は連邦政府のマッケンジー農業相(当時)とも会談した。この関係性がオーストラリアで「岐阜県サポーター」を生み、イチゴの受け入れ先確保につながったという。
輸出管理はJA全農インター
岐阜県と生産者は、昨年9月にイチゴ輸出の解禁が発表されると、すぐに検疫条件のクリアを目指した。早くも10月初旬に生産施設の登録申請を実施、その翌週には角斑細菌病菌の検査を始め、11月に選果こん包施設の登録申請を行った。年が明けて1月6日には各施設での害虫類のトラップ調査を開始し、今月に名古屋植物検疫所による輸出検査を受け、今回の初出荷に至った。
県農産物流通課輸出戦略係は、「他の県に前例もなく、初めてのことばかりで手探り状態だった」と振り返った。
イチゴは温度の変化に敏感で、輸送時の温度制御が重要なポイントとなる。サプライチェーンを通じた品質管理や通関手続きは、JA全農インターナショナルが担った。
(写真:検査する係官=農林水産省提供)
ターゲットは「価値が分かる客層」
オーストラリアの20年のイチゴ生産量は8万2310㌧で前年比7.5%増。輸入量はわずか4㌧と、市場供給量のほぼすべてが国産品という市場だ。年間で74%の世帯がイチゴの購入経験がある。
一方で昨年のオーストラリアの輸出量は4678㌧と、5年で145%成長した。輸出高は3300万豪㌦(約28億円)と、日本の輸出額21.1億円(19年)を上回る。ただし、日本の輸出量は962ト㌧と極端な差があり、日豪の輸出イチゴの価格差はおよそ3.7倍になる計算だ。
長谷川技術課長補佐は今回の輸出に当たり、「ターゲットは『素材の価値が分かる顧客層』」と語る。価格差を付加価値で埋めるという戦略だ。
今回輸出される日本イチゴの受け入れ先は、ビクトリア州メルボルンのセレブ・シェフ、マーク・ノーモイル氏だ。氏は17年のオーストラリアン・エグゼクティブ・シェフのコンテストで準優勝の実績を持ち、ニュージーランドの乳業最大手フォンテラが選ぶエグゼクティブ・シェフ・フォンテラ・オーストラリアにも選出されている。
今回の輸入が呼び水となり、今後、オーストラリアで日本産イチゴのブランド化が進むことが期待される。
(オセアニア農業専門誌ウェルス(Wealth) 2月26日号から)
【ウェルス(Wealth)】 NNAオーストラリアが発行する週刊のオセアニア農業専門誌です。
関連記事:甘くなかった豪州の検疫/「岐阜いちご」初荷は苦戦 西原哲也 NNAオーストラリア社長(2021年4月20日)
関連記事:アグリラボ所長コラム「立ちはだかった"検疫の壁" 豪州向け岐阜イチゴ、戦略見直し必要」(2021年5月12日)
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