つくる

ワイナリー続々オープン  「日本ワイン」人気で  共同通信アグリラボ所長 石井勇人

2021.02.12

ツイート

ワイナリー続々オープン  「日本ワイン」人気で  共同通信アグリラボ所長 石井勇人の写真

(写真:北海道・めむろワイナリー)

 酒類の市場が縮小する中、各地で地元産のブドウを原料に使うワイナリーの開設が相次いでいる。「日本ワインとは、国内で収穫されたブドウのみを使用し、国内で製造された果実酒」―こんな基準を国税庁が適用したのが6年前。当たり前のような定義だが、イタリアやフランスなど欧州で地域農業の振興政策の柱と位置付けられている地理的表示(GI)の一種だ。

 日本でも2014年に「農産物などに対する地理的表示制度」が整備され、酒類の表示も改められた。比較的歴史が浅い「日本ワイン」だが、輸入濃縮ジュースを醸造したり、輸入したバルク(桶)ワインと混ぜたりした「国産ワイン」とは明確に区別され、その品質は国際的にも評価され始めている。

 ブドウ畑にワイナリー(製造所)を併設すれば、ブドウの栽培・収穫から、ワインの醸造・加工・保管・販売まで手掛けることで付加価値を高められる。このため小規模のワイナリーが各地に続々と登場している。醸造設備が高額で、事業開始後の数年は収益を出すのが難しいため、初期投資に必要な資金調達が課題だが、金融機関も融資に前向きだ。

20210206ワイン長野2.jpeg

 長野県中川村の天竜川左岸にある南向醸造合同会社(写真)も、その一つだ。上伊那農業協同組合と日本政策金融公庫、長野県信用農業協同組合連合会が連携し、ブドウの生産と醸造施設を新設するため5000万円を協調融資した。

 同社の曽我暢有代表は中川村へUターンして新規就農、果樹生産を開始し、当初は生食用のブドウとリンゴを栽培していたが、国内外のワイナリーで研修を受け、就農当初に定植を始めた醸造用ブドウが収穫できるようになったのを受け、20年にワイナリーを整備、今年秋には念願の自家醸造が始まる。原料のブドウ(シラー、シャルドネなど)は有機無肥料栽培で、野生酵母で発酵、酸化防止剤を添加せず、無濾過無清澄でワインを仕込む。

20210206ワイン長野1.jpg

 曽我代表(写真右)は「中川村の自然、文化、風土が詰まったワインを、中川村でしかできないワインを多くの人に届けたい。自分を育ててくれた地域に貢献したい」と抱負を語る。

20210206ワイン帯広2.jpg

 昨年10月に醸造が始まった北海道芽室町のめむろワイナリー株式会社(写真)は、小規模な複数のブドウ生産農家がそれぞれ自分の畑で十勝の独自品種である「山幸(やまさち)」や「清舞(きよまい)」などを栽培し、原料に使う。日本ではまだ珍しい「共同ドメーヌ」だ。

20210226ワイン帯広1.jpg

 ブドウ栽培は15年から始めていたが醸造は他社に委託していた。欧州から輸入した醸造装置は、ブドウの果実を房から取り外す段階で醸造に適さない果実を取り除く機能があり、同社の尾藤光一代表(写真)は「芽室産ブドウの中でも特に良い部分だけを使うことで、世界に誇れるワインにしたい」と意欲を示す。ワイナリーの建設に必要な資金は、日本政策金融公庫などが融資した。

 20210206ワイン仙台1.jpg  

 宮城県南三陸町の志津川湾に面した漁港の傍らに、昨年10 月 7 日、南三陸ワイナリー株式会社(写真)のワイナリーがオープンした。空き工場を改装した建物で、仙台銀行と日本政策金融公庫が、醸造施設建設と醸造設備に必要な資金を融資した。

 20210206ワイン仙台2.jpg 

 17 年にブドウの苗木 700 本が植えられ、収穫ができるようになってからは他社の醸造を委託、そこで技術指導を受けた。念願の自前の醸造施設が完成し、シャルドネ、メルローなどブドウも3000 本に増えている。「南三陸の海の幸とマッチするフレッシュな辛口のワインを目指す」と、同社の佐々木道彦代表取締役(写真)。

 地域独自のブランド力を高めることができれば、ワイナリーは滞在型の観光の核にもなり、雇用を創出、農村の風景を変えていく潜在力がある。裾野が広い産業だが、課題も多い。

 少子高齢化と若者の「酒離れ」の影響で国内の酒類市場は縮小傾向が続いている上、酒類は節約の対象になりやすい。チリやオーストラリアなどとの自由貿易協定の締結で、関税が撤廃・削減され競争は厳しさを増している。

 ワインだけでなく生食用のブドウの輸入も増急増中だ。年間を通じて安定的に店頭に並ぶため人気が高まっており、今や生食消費の約1割が輸入ブドウだ。ブドウ栽培は機械化が難しく、後継者難で栽培を維持できなくなる農家も多い。経営規模を拡大してもコスト削減に限界がある。

 このため高価格で販売できるシャインマスカットに人気が集中、栽培面積はこの数年、前年比2割増のペースで増え「数年後には値崩れの恐れがあり、巨峰の二の舞になる」(ブドウ生産農家)と懸念されている。

 日本のブドウ生産は全体では減少傾向が続いているが、醸造用ブドウは12年から増加に転じ、国内生産の全体の約1割を占めている。ワイナリーの急増に対して原料用のブドウの供給が追いつかない地域もある。醸造用品種がブドウ生産の救世主になるかもしれない。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

地理的表示(GI)については「研究紹介・地理的表示保護による価格効果を検証」ご参照ください。

最新記事