コメから和牛へ 軸足移す基本計画 石井勇人 共同通信アグリラボ所長
2020.05.04

新年度に入り、農業政策の新たな中期指針である「食料・農業・農村基本計画」が始動した。5年前に策定した前回の計画と比べると、中小規模の農家や農村への配慮を感じるが、全体としては経営規模の拡大や輸出を推進する「農業の成長産業化」路線を加速する内容で、農政の軸足をコメから畜産へ移す姿勢が鮮明になった。
それを象徴するのが、食料自給率(カロリーべース)の目標値だ。前回の計画は2025年度に45%(18年度実績37%)としていたが、新計画は45%を据え置いた上で目標達成時期を30年度に先送りした。背景にはコメの比重が大きい自給率目標を引き上げても現実的ではないという諦めがある。
一方、新たに「自給率」とは別に、家畜の飼料が輸入か国産かを区別しない「国産率」という概念を創設。53%(18年度実績46%)を目標に据えた。日本の畜産業は輸入飼料に大きく依存しており、例えば牛肉の場合、カロリーベース自給率は11%しかないが、国産率だと43%に跳ね上がる。
新たな指標の導入によって、自給率を押し下げる「戦犯」扱いだった畜産は、名誉を回復し、高い目標値の設定は畜産振興政策を推進するよりどころになるだろう。
新計画には、農林水産物・食品の輸出を30年に現在の5倍超の5兆円に拡大する目標も掲げた。ただ、最近の輸出は伸び悩んでおり、目標達成のためには「輸出のエース」である和牛の大増産が不可欠だ。
江藤拓農林水産相は「(輸出拡大で)耕地面積を守り、荒廃農地を復活させるきっかけになる」と説明するが、新計画では飼料自給率目標を従来の40%から34%に引き下げた。これが意味することは、安い輸入飼料を使って、高級畜産物を輸出する加工貿易型畜産の推進だ。
果たして、この政策は持続可能だろうか。畜産業、特に牛肉の生産には大量の穀物と水を使い、メタンガスを排出して地球温暖化の要因になっている。世界の人口が増える中で、穀物を有効に利用するために畜産業を見直す国際潮流が強まっており、大豆を原料にした「人造肉」の普及も始まっている。
輸入飼料を使って富裕層しか食べられない高級和牛を輸出することが、長期的に望ましいのか。基本計画は「持続可能性」の重要性を繰り返し訴えているが、国際潮流の中で畜産業をどのように位置付けるのかという視点が、まったく欠けている。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年5月4日号掲載)
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