都市農園 30~40代に期待 廣瀬愛 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員
2020.01.06
ガーデニング・家庭菜園市場では近年、主力顧客層だったシニアが80代に差し掛かり、引退傾向にある。このため30~40代の若年層の取り込みが喫緊の課題となっている。
矢野経済研究所による消費者調査では、ガーデニング・家庭菜園愛好者が感じている課題が分かった。「場所」、「時間」の確保が難しいということと、資材にかかる費用を節約したい傾向にあるという2点である。
しかし近年、ビル周辺の空間やベランダなど都市空間を利用し、農業や土いじりに取り組む都市農業が盛り上がっている。さらに道具のレンタルや不在時の植物の世話といったサポートが充実した貸し農園が増え、市場が活性化してきている。
農林水産省と国土交通省を中心に、2022年に期間満了を迎える都市部の農地「生産緑地」を維持する対策に取り組んでいる。現在の生産緑地は1992年に、都市部に農地を残す目的で導入された。地主には30年にわたる税優遇を認めるかわりに、営農が義務付けられた。生産緑地は全国に約1万3千ヘクタールが存在する。
東京などの都市部では、税優遇措置が期間満了を迎える2022年以降に宅地転用が加速することが懸念され、さまざまな対策が実施された。18年度税制改正により、営農しなくても、都市農地を貸し農園として利用した場合の相続税の猶予が受けられるようになった。
また従来、市民農園開設者は地方公共団体などを経由して農地を借りる必要があったが、18年9月1日に施行された「都市農地貸借法(都市農地の貸借の円滑化に関する法律)」で、生産緑地の貸借における要件が緩和された。
市民農園開設者が農地所有者から直接、都市農地を借りて市民農園を開設できる措置が新設され、都市農地を有効利用しやすくなった。
市民農園の開設数は増加傾向にあり、農水省によると08年には全国で3350あった農園が、18年3月末時点では4165に増えた。政府の施策により、今後都市部の市民農園の増加に弾みが付くことが期待される。
18年度のガーデニング・家庭菜園の市場規模(生産者・メーカー出荷ベース)は、前年度比1・6%増の2275億円だった。19年度は1・3%増の2304億円と、微増で推移する見通し。矢野経済研究所は24年度の市場規模は2422億円に伸びると推計している。
都市農業の機運の高まりとともに、今後の市場の活性化が期待される。
(KyodoWeekly・政経週報 2020年1月6日号掲載)
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