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「書評」 農業現場を検証する 「日本農業の動き223」 農政ジャーナリストの会

2024.09.01

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「書評」 農業現場を検証する 「日本農業の動き223」 農政ジャーナリストの会の写真

 食料・農業・農村基本法の改正を踏まえ、農政ジャーナリストの会は、農業者・生産者らの声を直接聞くため、4人を講師に招いて連続勉強会を開催した。

 本書はその採録だ。押井営農組合(愛知県)の鈴木辰吉代表理事は、地域の住民を巻き込んで農地中間管理機構を活用する仕組みを紹介し、地域支援型農業(CSA)への発展を想起させる。十和田おいらせ農業協同組合(青森県)の斗澤康広氏代表理事専務は、高性能土壌診断分析システムを活用したブランド野菜の販売について述べ、営農支援アドバイザーの大友良彦元JA全農宮城県本部長は、消費者と生産者の相互理解が必要だと訴えている。

 また、東山寛北海道大学大学院教授は、農業所得の確保が切羽詰まった状況にあると強調し、環太平洋経済連携協定(TPP)など過度の貿易自由化や生産資材を含めた輸入依存の深まりに警鐘を鳴らしている。

 それぞれ、重要な視点だが、「解題」に相当する巻頭論文「食料安全保障は重要だが、担い手の確保と農地保全に万全を」(池田辰雄氏)の課題提起とかみ合わない印象を受ける。

 本書で紹介される「現場の声」は、多くの課題がありながら創意工夫で乗り越えてきた貴重な実例だが、農家が急ピッチで減少する中、農地をどう守るのかという巻頭論文で掲げられた問いに対する答えは、地域や消費者との結び付きを強めるという漠然とした内容だ。

 これに対して、中西博之元埼玉新聞記者の寄稿「改正農業基本法と食料安全保障」は、麦、大豆、飼料穀物など転作の状況を紹介し、「国産でできるものは国内で作ること、この当たり前のようなことをまず政府は徹底すべきである」と、水田の維持を明確に訴えている。

 巻末では、第39回農業ジャーナリスト賞の受賞5作品を紹介している。日本農業の動き223号(農業現場を検証する)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。