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「書評」 内製化による食のSPA 「葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた」 (戸波亮)

2024.01.14

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「書評」 内製化による食のSPA 「葬儀会社が農業を始めたら、サステナブルな新しいビジネスモデルができた」 (戸波亮)の写真

 農業協同組合(JA)が葬祭業を営むくらいだから、葬儀会社が農業に参入することもあるだろうという軽い気持ちで読み進めるうちに、著者の挑戦は単なる多角化や複合経営ではなく、内製化の徹底によって企画から生産・販売までを垂直統合する「食のSPA(製造小売業)」だと分かってくる。

 著者は、祖母が経営していた葬儀会社を引き継いだ後、債務返済に追われる。葬儀サービスは外注業務が多い。少しでもコストを削減するため内製化に着手した。葬儀で使う生花の仕入れから始まり、葬儀や法事の仕出し弁当を内製化、会葬者への返礼品として米に着目し稲作にたどりつく。

 内製化を徹底するため、著者自らアパートを借りて泊まり込みで米を配達、オペレーターが足りなければトラクターやコンバインにも乗って外注を避ける。2013年に7ヘクタールから始めた稲の作付面積は、52ヘクタールに拡大した。

 規格外の米を養鶏の飼料に使い、高級卵を生産し、甘酒の加工・販売にも乗り出した。水田が生み出すものをすべて自社の商品として販売する。著者は「従来の農業の常識とは異なるかもしれませんが、ビジネスの発想からすればごく普通で当たり前のこと」と強調する。異業種の参入によって農業分野が刺激を受けることを期待したい。幻冬舎メディアコンサルティングから出版、税込み1760円。