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「書評」 農協が日本人の"食と命"を守り続ける! 久保田治己

2024.09.11

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「書評」 農協が日本人の

 日本製鉄によるUSスチールの買収は阻止される可能性が強まっている。一方、セブン&アイ・ホールディングスはカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けている。国際間の企業の合併・買収(M&A)は経済的な合理性だけでは説明できない。労働者ら関係者の感情、国家の威信や安全保障政策が強く影響する。

 本書は、うっかり読み流すと、JAたじま(兵庫県)のコウノトリを育む稲の栽培や、新型コロナ感染症者をいち早く受け入れた全国の厚生連病院など農業協同組合(JA)の活躍を紹介し「JAも頑張っている」とアピールするための広報の一環として受け止められる恐れがある。

 実際に、著者は全国農業協同組合連合会(JA全農)の元広報部長であり、自ら後書きで本書の狙いとして「JAの役職員にもっと元気を出してもらいたい」と「農協の良いところを理解していただきたい」の2点を挙げているため、広報書籍として読まれてもやむを得ない。

 しかし、本書の白眉は食料覇権を握る米国の国策の一端を明らかにしている点にある。特に4章「キャラウェイ旋風―沖縄の農協改革」から6章「全農『株式会社化』の謀略」にかけては、緊張感を持って読むことができる。

 環太平洋連携協定(TPP)によって米国は何を狙っていたのか、安倍晋三政権のTPP推進やJA改革との関係を、穀物を通じて国際政治を観察してきた著者の独自の視点で分析、報告している。

 JA全農は、ニューオーリンズに穀物の船積みを担う全農グレインを設立し、収穫後に農薬を散布した飼料や遺伝子組み換えトウモロコシを排除するため、独自のネットワークを使って分別集荷(IPハンドリング)の仕組みを構築した。本書の指摘が正しいとすれば、JAや生活クラブ生協連合会は米国の穀物メジャーの「虎の尾」を踏んだことになる。

 米国はTPPから離脱し、穀物メジャーのリベンジは終わっていない。米国の次期政権は食料覇権を維持するためにどのような行動に出るのだろうか。JAに対して再度の挑戦はあるのだろうか。日本の国家主権とは何か、日本はいまだに米国の属国なのか。こうした仮説を考え、米国の次の一手を予想する上でも本書は大いに参考になる。「農協が日本人の"食と命"を守り続ける!」はビジネス社刊 定価1800円(税別)