「書評」 フードスケープ 図解 食がつくる建築と風景 正田智樹
2024.08.02
「フードスケープ」は、食と風景(ランドスケープ)の合成語だが、本書では「気候風土や食文化と結び付いた食品加工の工程に沿って最適に配置されたエコロジカル治具(建物、設備、道具)がつくる風景」と定義している。
食について、日本ではグルメ情報があふれ返り、そのほとんどは「おいしさ」に焦点が当てられているが、本書は「建物、設備、道具」というユニークな切り口で食と農村を考える点で、とても新鮮だ。
イタリアのパルマハム、かつらぎ町の干し柿など、内外の美しい風景を、オールカラーの写真、地図、建物や設備・道具の配置を示したアイソメ図(建物設備の見取り図)、加工の工程を地形や設備の中に描き込んだバレーセクションを駆使し、食の背景にある文化や自然環境を伝えている。
図解には風や水の流れ、光の差し込み、熱の伝わりなどが細かく書き込まれ、「おいしい」「ジューシー」などの主観的な表現を極力排し、建物の構造、とりわけ窓の形や位置など光と風を取り入れる工夫を詳述する。年間降水量、最低最高気温も必ず記してある。
本書は、フード・チェーンの下流に相当する加工施設を建築の視点で描いているため、加工の対象となる食材そのものや、食材を生み出す「土」や「水」への言及がほとんどない。上流に相当する食材生産の視点から「フードスケープ」の続編を期待したい。
著者は、イタリアミラノ工科大学への留学の経験がある1級建築士だが、本書の肩書は「会社員」のみ。そんな細部にも「客観性」へのこだわりを感じた。「Foodscape フードスケープ 図解 食がつくる建築と風景」は、学芸出版社から出版。税込み3300円。