「書評」 有機給食が地域を変える 「日本農業の動き222」 農政ジャーナリストの会
2024.05.17
農林水産省は、2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、有機農業の普及に本腰を入れる姿勢を示した。ただ、同省は有機農業の意義についてもっぱら「環境負荷が小さい栽培技術」と説明しており、社会との関わりについては明確な姿勢を示していない。
有機農業は単なる栽培技術ではない。有機農業学会の前会長で谷口吉光・秋田県立大学教授が指摘するように、生産者や消費者だけでなく、地域全体を巻き込み、教育、健康、貧困、福祉など社会全体の変革を促す側面がある。その本質を見誤れば、有機農業は既存の経済システムの中に織り込まれて「慣行農業化」してしまう。
農政ジャーナリストの会は、「給食」を糸口として有機農業と社会の関わりを考えるため、2023年8~9月に4回の研究会を開いた。本書の特集「学校給食と地産地消」は、その採録だ。
初回は、千葉県いすみ市の鮫田晋・農林課有機農業推進班長が「学校給食から進める有機農業」と題して、導入期から先進モデルに育つまでの実践を報告した。次いで、専修大学人間科学部の靍理恵子教授が食育基本法の成立を軸に「有機給食のとらえ方」を論じた。
京都大学大学院農学研究科の山本奈美研究員は、米国カリフォルニア州の公立小学校の事例を紹介し、JA会津よつばの山口潔理事と喜多方市立加納小学校の校長らが現場の状況を報告した。
給食は、有機農業と社会をつなぐ上で幅広い理解を得やすく、公共調達の面でも重要だ。有機農産物を使った給食が、持続可能な社会に向けて変革を促す「一丁目一番地」として各地で普及することを期待したい。
別稿の「地方記者の眼」は、年初の能登半島地震について中日新聞北陸本社の前口憲幸・七尾支局長が、復旧の遅れや能登の人々の優しさを伝えている。「うんうんとうなずき、いつも近くで共感し、不安を抱き、怒り、泣き、笑う」と、被災者と一体化した現場取材の姿勢に敬意を覚える。
日本農業の動き222号(有機給食が地域を変える)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。