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書評 酪農危機、どうする? 日本農業の動き(220) 農政ジャーナリストの会  

2023.11.30

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 今の日本の農業は暴風雨にさらされている。飼料・肥料・燃料価格の高騰、天候不順、家畜伝染病、高齢化に伴う離農者の増加、人手不足、供給網の不安定化などさまざまな課題を抱え、中でも酪農の需給調整は、生乳の廃棄だけでなく乳牛の淘汰に及び、酪農家の約6割が離農を検討するなど、まぎれもない「危機」だ。

 本書は、椛木円佳・株式会社マドリン代表、藤田毅・藤田牧場代表取締役、冨士重夫・一般財団法人蔵王酪農センター理事長の3人の生産者と、矢坂雅充・日本農業研究所研究員による講演を採録し、酪農危機の構造と課題を明らかにしている。

 酪農の「一元集荷」は協同組合の原点でもあり、時宜を得た内容だが、問題意識が「どうする?」に偏重し、「どうして?」という視点が弱い。現場を重視し生産者に寄り添う姿勢は評価したいが、ジャーナリストにとって、危機を招いた責任の所在を明らかにする検証作業も重要な責務だ。

 「どうして?」の疑問に対する答えとして、小倉千沙・会員は巻頭の解題で「生乳価格の引き上げが大幅に遅れた」と行政の反応の鈍さを指摘している。矢坂研究員は、規制改革推進会議が主導した協同組合法と畜産経営の安定に関する法律(畜安法)の改正を「政策的につくられた危機」と厳しく批判している。藤田氏は国のクラスター事業による経営規模の拡大の弊害に言及した。

 いずれも重要な指摘であり、深掘りするべき課題だ。なぜ行政の対応が遅れ、畜安法が改正され、クラスター事業が始まったのかを考えるとき、環太平洋連携協定(TPP)連携協定という巨大な背景が浮かんでくるはずだ。

 本号には、夏にカナダ・アルバータ州で開かれた国際農業ジャーナリスト連盟(IFAJ)の年次総会と共同取材の報告も掲載されている。日本農業の動き220号(酪農危機、どうする?)は農山漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。