「書評」鍵を握るのは消費者 「日本農業の動き214」(農政ジャーナリストの会)
2022.06.08
農林水産省は地球環境の保全と農業生産の調和を目指す「みどりの食料システム戦略」をまとめ、今年の通常国会で関連の新法が可決・成立し、5月2日に公布された。今後は自治体などが地域単位で具体策を盛り込んだ計画を策定し、「理念」から「行動」に局面が移る。
しかし「具体的に何をやればよいのか分からない」という自治体の農政担当者や農家が多い。無理もない。そもそも自分が経営する農場から温暖化ガスがどのくらい発生しているのか、実態を把握できていない。ましてや、何をやればどれだけ減るのかという因果関係も未知だ。
国主導の理念先行型の「戦略」に対して、「農政ジャーナリストの会」も懐疑的なのだろう。本書ではタイトルに「みどりの食料システム」を使わず、「脱炭素」と間口を広げ、農林中金総合研究所の平澤明彦執行役員基礎研究部長による欧州を中心とした国際情勢の講演録を冒頭に置いた。「戦略」を解説する農林水産省の岩間浩研究調整課長に対する、厳しい質疑応答も収録されている。
「戦略」の焦点の一つに、耕地面積に占める有機農業面積の割合を25%(100万㌶)に拡大する高い目標がある。日本の有機農業の歴史に詳しい一般社団法人フードトラストプロジェクトの徳江倫明代表と、土壌学の専門家で不耕起栽培に詳しい福島大学の金子信博教授の講演録も収録している。
ただ有機農業の拡大は、「少し値段が高くても環境政策と調和した農産物を購入したい」という消費者の意識改革が鍵を握る。有機農産物の市場拡大は生産者だけでは実現できない。本書に収録されている4人の識者の講演録はいずれも興味深いが、消費者サイドの専門家の考え方も知りたいと感じた。
日本農業の動き214号(脱炭素社会に向けた日本農業の針路)は農村漁村文化協会(農文協)発行、税込み1320円。