「研究紹介」 事業継承に「地域」の視点 農林金融9月号から
2021.09.05
新型コロナの感染拡大で、飲食店の廃業が相次いでいる。自営業の後継ぎ問題は、待ったなしの瀬戸際だ。家族や縁者ではなく、新規参入者に経営資源を一括、いわば「居抜き」で引き継ぐ「第三者継承」が、ますます重要になるだろう。
ただ、農業分野の事業継承にはさまざまな課題があり、農林中金総合研究所の「農林金融」2021年9月号は「地域農業の継承のために」をテーマにしている。長谷祐研究員は「耕種農業の第三者継承における支援組織の役割」の中で、農業分野の最大の特徴は「地域という視点」であり、「事業の承継」だけでなく「地域農業の継承」として取り組むことが重要だと指摘する。
その上で、成功事例として、JAみなみ信州(長野県の南部)、埼玉県大里農林振興センター(埼玉県熊谷市)、庄内梨園流動化促進協議会(大分県由布市)の活動を紹介している。
本論文は一貫して、農業分野では農地のある地域からの理解が必要だと指摘しているが、紹介されている3例の当事者たちはA氏、B氏などと表記され、年齢、性別、家族構成がわからない。
プライバシーへの配慮が必要だとしても、地域との関わりで、家族、特に配偶者の役割は不可欠な要素だ。就農者の親や子どもたちも、施設や学校、行事を通じて地域の中で暮らす例が多い。この点こそ、都市部の中小企業の事業継承と比べて決定的に異なる点ではないのか。
唯一、JAみなみ信州の例で、新規就農者の住宅確保に触れているが、もう少し就農者やその家族を含む「暮らし」の面で、支援組織の側にどのような創意工夫があるのかを知りたいと感じた。