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「研究紹介」 東日本大震災、福島原発被災の厳しい現実  農林金融3月号から

2021.03.10

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 東日本大震災から10年という節目に合わせて、さまざまな報道がある。改めて失われた「日常」の重たさを思い知らされ、その不条理を表現する適切な言葉を見つけられない。

 農林中金総合研究所の「農林金融3月号」は「震災復興への取組み」を特集し、福島県の原発被災地域と、宮城県の津波被災地域を扱う2本の論文を収録している。いずれも被災地に通い続け、見守り続けてきた濃密な研究成果だ。福島県では、今なおふるさとへの帰還が大きな課題であるのに対し、宮城県では比較的順調に構造改革が進み、明暗を分ける。しかし共通しているのは、災害から立ち直るのに「節目」など存在しないということだ。

 「農業と地域社会の再生へ向けて」を執筆した行友弥特任研究員は、「農政ジャーナリストの会」の会長でもあり、論文の白眉は後半の被災者からの聞き書きにある。同研究員の旧知の被災者で花を栽培している農家は「(被災地のことを)忘れてもらって構わない。人はそれぞれ置かれた状況のなかで花を咲かせるものだから」と、新しい「日常」の中にいる現実を吐露する。

 論文は「残念ながら『時間がたてば中堅・若手世 代の帰還も進み、いずれは元の人口水準が 回復される』とは考えられない」、「(風評被害は解消しつつあるものの)福島県産米は『良質だが割安な 米』として、外食などのユーザーから引き合いになる皮肉な状況」と、厳しい現実を伝える。

 「原発事故で深い傷を負い、人口急減と高齢化に悩む被災地を、モノ・カネの投入(国 や地方自治体の復興事業)や既存の住民の力だけで再生させることは難しい」と指摘した上で、「地域外の多様な人々と新たな関係を構築していくことが一つの答えになる」と結論している。恐らく「一つの答え」というよりは「唯一の答え」だろう。

 「震災による農業構造の変化と農協の役割 」を執筆した斉藤由理子特別理事研究員は、宮城県の津波被災地では「農地、施設等のインフラの復旧はおおむね完了、 農地の集約化や圃場の大区画化、先進的な技術を装備した施設や農業用機械の整備という内容のインフラの復旧とともに、津波被災地では農業構造の変化が加速している」と報告。

 経営規模の拡大、法人化、ブランド化、「イチゴ団地」の形成など、地域の実態に応じた柔軟で多様な復興パターンを紹介し、農業協同組合が果たしている役割にも触れた。

 行友特任研究員は「膨大な経験の蓄積が被災地にはある。我々は常にその体験に学び続けるべきだ」と指摘する。未解決の課題も、乗り越えた課題も、いずれも犠牲者からの預かり物であるーとの感想を持った。

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