「研究紹介」 コロナ禍における和牛需給の変動/肉牛繁殖経営の将来展望 農林金融 2020年9月号「畜産をめぐる新たな課題」から
2020.09.18
「農林金融」2020年9月号は、畜産業の特集だ。本号冒頭「今月の窓」で農林中金総合研究所の内田多喜生常務取締役は「牛肉生産の差別化・付加価値化の方向は、大きな成果をもたらした」と評価しつつ、「新型コロナウイルスの感染拡大はそうした取り組みが抱える課題も表面化させることになった」と指摘、「家庭内消費を含めより幅広い需要への対応も強化していくことが必要」と狙いを説明している。
この問題意識を深掘りしているのが、「コロナ禍における和牛需給の変動」(長谷川晃生主任研究員)だ。本稿は、コロナ禍前から景気の減速を受けて価格は下落基調だったことを明らかにし、コロナ禍を受けて輸出やインバウンド向けの需要が激減、サーロインなど高級部位を中心に価格が急落した経緯を詳述している。需要の喪失を「国内消費の拡大でカバーするという課題は当面継続する」とし、中期的には「家庭消費向けに低コスト生産による手頃な和牛肉の供給も必要」と提言している。
「低コスト生産」を実現するための具体策はあるのか。その回答の一つが同じ農林金融9月号に収録されている「肉牛繁殖経営の将来展望」(農研機構 西日本農業研究センターの千田雅之農業経営グループ長)だ。日本の肉牛生産のコスト構造を分析し、子牛生産に必要な労働費や飼料費が極めて大きく、コスト削減のためには親子放牧が切り札になると論じる。給餌、排せつ物の処理、飼料の運搬作業などが軽減され、環境や牛の健康管理にも寄与するという説明は説得力がある。
畜産業のもうひとつの柱である養豚においては、豚熱(CSF)が大きな課題だ。ワクチンの接種で見掛けは収まっているが、野生イノシシへの感染は拡大を続けており終息を見通せない。コロナ禍がなければ、恐らく畜産業の最大の課題だろう。本号巻頭の「養豚の特徴と豚熱対策の状況─生産者の財務の観点から─」(農林中金総合研究所の北原克彦取締役食農リサーチ部長)は、養豚業の産業構造から18年9月に岐阜市で発生したCSFの経緯、その対策まで分かりやすくまとめている。
農林金融 2020年9月号(農林中金総合研究所)