「研究紹介」 地方金融機関の可能性/コロナ禍で長期化する低金利 農林金融 2020年5月号「超低金利と金融」から
2020.06.10
「農林金融」2020年5月号の巻頭論文「図表でみる地方銀行の今」(古江晋也主任研究員)は、長引く低金利の影響を、地方銀行と第二地銀の決算など公表資料を基に分析した。業務利益、経常利益、当期純益とも減少が続いているが、さらに厳しいのはその対応だ。
論文は慎重な表現で控えめに書かれているが、一言で表現するならば「八方ふさがり」だ。地銀・第二地銀は「効率的な営業」から「対話を重視する営業」への転換、アパートローン、カードローン、信託業務、手数料ビジネスなど、さまざまな経営努力を重ねてきた。
しかし、それぞれに課題がある。店舗・ATMの再編や人件費の削減も限界があり、経営統合もコンサルティング営業には逆効果だと、古江主任研究員は次々と「ダメ出し」をする。
これまで低金利下でも収益を出せた理由を「与信関係費用が極めて低水準だった」と本質を突き、信用コストは中小企業の経営が行き詰まれば増加に転じると警告する。つまり、「もう待ったなし」というわけだ。地域の企業や経済に貢献するためには、上場を廃止した方が良いというのが古江主任研究員の私見だ。極論とも思えるが、そのくらい地銀・第二地銀は追い詰められている。
同じ農林金融5月号に収録されている講演録「欧州協同組合銀行のトレンドと課題」―日本の協同組合金融機関への示唆―は、先進事例を踏まえた抜本的な改革案が示され、日本の農業協同組合には大いに参考になるだろう。講師はパリ第一大学ソルボンヌ・ビジネススクール学長のエリック・ラマルク博士。2019年10月30日の講演だが、新型コロナウイルスの感染拡大後、本質はより鮮明になった。
ラマルク博士は、協同組合銀行の課題として、リスク管理とガバナンス、社会的責任、若年層への訴求力、「身近さ」の再定義の4点を挙げ、フランスやカナダの事例を示して対応策を示している。特に、「身近さ」は日本の協同組合にとって真剣に考えるべき問題提起だ。
大手金融機関の地方店舗網の縮小などで、JAバンクは地域に根付いていると過信しがちだが、本当にそうなのか。デジタル時代に「身近さ」を再定義したときに、店舗は必要なのかという、根本的な課題を突き付けている。
農林金融 2020年5月号(農林中金総合研究所)